金峰町の棒踊り - 田布施大田阿多棒踊りの構造棒踊りの成立まとめ鹿児島の民俗 - 薩摩民俗HOME

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3 棒踊り系芸能の構造と位置づけ

 ここまで、調査した金峰町各地の棒踊りを見てきた。以下では、踊りの構造を整理し、その成立過程を考察してみたい。

(1) 踊りの位置づけ

名称 金峰町の棒踊り系芸能は、「お田植え踊り」と呼ばれることが多い。2踊り以上がある集落でも、まとめて「お田植え踊り」と称している。ここまでの調査では「御田踊り」の名は確認できなかったが、郷土史では「おたおどり」読みを記している。「はげ(はぜ)おどり」の名称も聞かれ、これは半夏生に由来する。

期日・場所 期日は田布施では5月6日、中津野・松田では半夏生に踊られた。田布施では「お田植え祭り」の奉納芸能とされるが、田植え習俗は伝承されておらず、棒踊り系芸能が奉納されるだけの祭礼となっている。実際には、いずれの地区でも田植え後の休み日に、地区の神社に奉納し、集落に帰って披露されている。

踊りの意義 したがって、この地域における棒踊り系芸能は、田植え上がりの豊作を願う民俗芸能といえる。

(2) 踊りの構造

隊形 隊形を表2に整理した。同じ採り物・踊りでも集落により異なる呼称をもつものがあるため、この表では、組最低人数と代表的な採り物から、筆者が整理用に名付けてみた。踊り子は、4人で踊るものは2列縦隊、6人で踊るものは3列縦隊となる。

〔表2〕 隊形・採り物一覧表
分類 [A]6人がらみ
棒踊り
[B]4人がらみ
鎌踊り
[C]6人がらみ
薙刀踊り
[D]6人組
刀踊り
[E]4人がらみ
シベ錫杖踊り
隊形  6人がらみ棒踊りの図 4人がらみ鎌踊りの図 6人がらみ薙刀踊りの図 6人組刀踊りの図 4人がらみシベ錫杖踊り(金山踊り)の図
六尺棒
いずれか いずれか
ナギナタ
錫杖 いずれか
(シベ錫杖)
ホコ
笹竹

6人組刀踊りのホコ。木花館(大野下馬場)写真シベ竿・奉踊棒 花瀬を除き、踊り子の先頭にシベ竿(削り掛けを付けた竹竿)又は「奉踊…」と書いた杉板のついた棒を持つ役がいる。他市で先山と呼ばれる役のことである。

 シベ竿について、田布施各集落ではこれを「マトイ」と呼んでいる。一方、[D]の刀踊りで先頭行と最後行の片端の踊り子が持つ「奉踊金峰神社」と書いた板をつけた棒のことを「ホコ」と称する(本稿ではわかりやすく以下「奉踊棒」と呼ぶ)。中津野では、大きなシベ竿はなく、奉踊棒が先頭につき、それを「ホコ」と呼ぶ。松田ではシベ竿のことを「ホコ」と呼んでいる。

 表3に整理してみた。シベ竿のことを金峰町の南に位置する加世田でも「ホコ」と呼ぶ。そうすると、シベ竿を「ホコ」と呼んでいたものが、奉踊棒が採り物の1つとして登場し、代わりに田布施で「マトイ」の名称が付いたとは考えられないだろうか。

〔表3〕 シベ竿の名称
名称 田布施 中津野 松田
シベ竿 マトイ ―― ホコ
奉踊棒 (ホコ) ホコ ――

※田布施のホコは、刀踊りの採り物。

4人がらみ鎌踊りの襷(中津野)写真服装・採り物 着物は、[A]では白地の浴衣が多く、[B]では紺絣と白絣が半々、[C]と[D]はすべて紺絣、[E]では大野で朱色柄・中津野で白地柄であった。

 手には、[D]6人組刀踊りだけは手甲をつけないが、他の[A][B][C][E]では朱色柄などの手甲を付ける。足には、[D]だけは脚絆をつけないが、他の[A][B][C][E]では黒脚絆をつけている。白足袋・ワラジを履くのはすべて共通。頭には、[D]だけはシベ笠を被るが、他の[A][B][C][E]は白鉢巻姿。襷はすべての踊りで朱色柄又は赤・ピンク柄のものを掛けている。

 採り物は表2に、種類別に整理した。これらで筆者が興味を持ったのは、[D]刀踊りの錫杖と笹竹。錫杖の下端は、幅広の十字型になっており(奉踊棒も同様)、下甑島手打の資料館で拝見した脱穀具「サシ」を思い出した。[D]の錫杖や奉踊棒も、脱穀具と同じく、力強く地面を叩くことができるように工夫されている。

4人がらみ鎌踊りの踊り子(尾下下組)写真 また、笹竹を持つ踊りに、日置八幡神社のお田植祭りで奉納される諏訪の笹踊りがある。6人組で右手に笹竹、左手に刀を持つ。ここでは錫杖や奉踊棒はなく、全員が同じ採り物を持つ。

 下野敏見氏は、この笹竹を魔ばらいのためと述べているが〔下野2009 68―72頁〕、筆者が金峰町の習俗でまず思いつくのは、水神祭り「ヨッカブイ」で二才衆扮する大ガラッパの笹竹。大ガラッパは子供たちを諭し、大騒ぎしているが、よく見ると、手に持った笹で参拝者を祓って回る。竹はコサンダケで、実測したものは長さ133センチ。笹竹の魔ばらい・清めの意味が、このことからも理解できる。

踊り方(振り) いずれの集落でも、棒突きのあと、各踊りになる。神社への奉納踊りでは、拝殿の前にシベ竿が運ばれ、歌に合わせて、数人の保存会役員が上下させて地面を力強く突く。

 その間、踊り子はシベ竿の動きに合わせ、[A]では全員が右手に持った六尺棒で地面を突く。[B][C]では、ナギナタ列はナギナタで地面を突き、鎌列の踊り子は左右に体をゆする(鎌は左手に持つ)。[D]では全員右手の採り物(錫杖・ホコ・笹竹)で力強く地面に突き、斜め前にゆする。錫杖はチャリンッ・チャリチャリンと歯切れよく鳴る。左手の刀は動かさない。[E]では右手のシベ錫杖を前後に突き出し、上下にゆすって鳴らす(チャリン・チャリンと鳴る)。左手の刀は動かさない。

 踊り自体は詳しく検討していないが、いずれも歌い出しの一節(「歌アゲ」という)の後(鎌はここで持ち替える)、[A][C]では6人組で、[B]では4人組で打ち合う(切りあう)。[D][E]は両手に採り物を持っているので切りあうことはないが、[E]では左右両列が向き合って、[B]に似た仕種がある。[D]はそれぞれの踊り子が単独で回転したり、採り物を突きだしたりする踊りとなっている。

(3) 踊りの歌

歌詞 「おせろが山に前は大川」は全集落で確認できた。他にも多数伝承されているが、棒突きや入場・退場では、「今こそ通る神に物詣り」が多く聞かれた。

歌い方 出だしの一節、たとえば「おーせーろーがー」を師匠クラスの歌い手が独唱し(これを「歌をアゲる」という)、その後数名で合唱する。踊り子はアゲ歌の後、「さぁさぁさぁ」あるいは「ひょー」などと気勢を上げて踊り始める。歌い手はみな揃いの法被に身を包んでいる。

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