甑島調査日誌(上甑) はじめに / 平良 / 小島 / 瀬上 / 桑之浦・中甑・まとめ鹿児島の民俗 - 南さつま半島文化

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写真●カイノ(上甑村郷土資料館)[聞き書き(4)]上甑島中甑(なかこしき)集落
S.K.さん S12生まれ・男性 2001.9.8調査

●交流伝承から
○漂着物
以前,お盆すぎに精霊船が甑大明神橋のそばに流れ着いているのを見つけたことがある。こちらは精霊舟を流すことはしない。長崎の精霊舟が有名なので,長崎から流れ着いたものではないかと思っている。

●交通・物流伝承から
○郵便船
中甑郵便局は明治7年に郵便取扱所として開業した。戦後しばらくまで定期船とは別に,郵便船があった。焼玉エンジンのダンベイ船で故障も多かった。「あさぎり」という名前だったと思う。
平良郵便局は無集配局で,串木野局の委託業務局。今はまだ串木野から直接定期船がついている。島なので小包が集配局と同じぐらい多かった。

写真:カイノ(上甑村郷土資料館)


[聞き書き(5)]上甑島桑之浦(くわのうら)集落 S.K.さんT11.2.21生まれ女性・A.H.さんT10.8.18女性 2001.9.9調査

●村落伝承から

○代用食

戦後の食料が不足していたころは,ユリの根を食べた。掘ってきて,水に一時つけてあくを抜き,ざるに入れて川の水で洗う。それを炊いて,臼でついて,塩をいれて食べる。

○地引網
地引網ではメーテと言って,かかった(さわった)だけで子供でも取れた魚をもらえた。赤子のいる家は,「赤子があるからやってくれ」といって魚をもらった。カマスなんかも入っていた。かますの塩辛を作る。ほしい人はワタももらう。

●交流伝承から

○湯治
毎年新暦の7,8月ごろ5,6人で連れ立って,西方の高城温泉に1〜2週間遊びに行っていた。2週間泊まって1万円ぐらい。自分が30歳ぐらいまでやっていた。食べ物を持っていく。お米やつわぶき,昆布,干し魚など。カシマメというソラマメを干して皮をむいたものを5合から1升持っていった。風呂には1日に3回ぐらい漬かって,その後は部屋でごろごろしていた。使う宿はいつも決まっていて,前もって連絡しておくので,串木野まで行ったら主人が出迎えてくれた。自分のおばあさんの代は駅から歩いていった。子供といっしょに夏休みを過ごすようなものだ。お土産には「川内温泉」と書いた手ぬぐいを持って帰る。

●交通・物流伝承から

○イサバ
昭和のはじめ,自分の小さいころ7,8間の小さなイサバという舟が桑之浦にも合った。2本帆の帆船。マルカワという屋号の船主がいた。薪を切り出して,下甑の鹿島へ運んでいた。向こうからは何もつんでこない。

○薬売り・商人
入れつけ薬は鹿児島から来ていた。
知覧からお茶を売りに来ていた。
芝居や映画が公民館であった。ビラをまいて人を集め,50円で見られた。


3 交通物流調査のまとめ

(1)各村落の地域性と交通・物流

まず,各村落の特徴的な伝承としては,平良で十五夜行事に相撲をとらないこと,桑之浦で下甑島の鹿島へ木材を搬出していたことが上げられます。上甑島の各集落では綱引きとセットで相撲をとります。平良はつい最近,甑大明神橋がかかるまでは「離島」でした。ですから同じ上甑村でも異なった行事をするのは理解できます。なぜかということになると,これから考えていかなければなりませんが・・・。

次に上甑島の地域性が示される伝承としては,まず物流の面で天草や福岡の柳川・大川との交易伝承があります。福岡からイサバ舟で瓦がもたらされたというのは興味深い話でした。文化の面では薩摩半島西部との交流の伝承がありました。川内高城温泉への湯治の話が印象的でした。ただ,もう少し,長崎との交流伝承が聞かれるかと思いましたが,あまり聞くことが出来ませんでした。漁業の面では天草から漁法は伝わっていますが,船はサツマ型だということが分かりました。鮮魚の出荷は魚の種類ごとに,市場に敏感に,港を分けて出荷されています。

(2)調査・研究方法の課題

写真●現在の定期船フェリーこしき(里港)今回の調査では調査項目があまりにも多すぎ,一方で現地に入ってから,お茶売りや湯治・楽しみなど,欠落していた項目に気付きました。
それと,私はイサバというフネをキーワードに民具・民俗調査をしたのですが,モノを通した”事情聴取”のみでなく,ヒトのライフヒストリーとして調査しなければならないなあと,改めて感じました。
トータルな文化交流史の構築するには大変な時間が必要です。地道な調査と整理を続けなければ鳴りません。一方で,平良などは架橋とともに従来からの文化が著しく変容してきつつあります。出来る範囲で調査をぼつぼつ続けていきたいと思います。

写真:現在の定期船フェリーこしき(里港)

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