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開聞岳を望む池田湖全景

池田湖は鹿児島の南部、指宿にあるカルデラ湖(火山ができた反動で陥没した窪みに
水が溜まったもので、隣にある開聞岳の影響を受けている)である。湖畔には天然記念
物の大ウナギが展示され、これが体長2メートル以上もあって太さが大人の太ももほど
もある。この湖ではほかにコイ、ソウギョ、ライギョ、スッポンなどいずれも巨大なものが
棲み、ニジマスにいたっては日本最大といわれ、冬のシーズンには本場の北海道から
釣り人が遠征してくるほどだ。                                  

なぜこれほど生物が大きくなるのかといえば、233メートルの最深部が湖底火山になっ
ており、そこから活性化酸素が多く噴出しているからである。活性化酸素というのは酸素
を濃く含んだ水質で、この中で育つ生物は新陳代謝が活発で、成長速度が倍以上になる。
今ではこの水質を人工的に造り出し、ヒラメなどの養殖に利用されている。池田湖におい
てもこの水を利用してさまざまな魚の養殖が盛んである。                   
さらに特筆すべき事は湖底火山のおかげで深いところでは周年水温が高く、このため
池田湖の生物は冬眠する必要が無く成長を加速させているということだ。         

展示された大ウナギについて、観光ボートの船長さんは20年前に捕獲されたものだと
いう。当時は食用として漁をしていて、味のほうは大味であったという。今は天然記念物
に指定されているので捕獲できない。この大ウナギ、20年も生きているわけだが、以前
には4メートルの個体を捕まえた事があるという。2メートルで20年とするなら4メートル
でいったい何年生きるということだろうか?                          
一般的な目撃を総合すると、イッシーの全長は約20メートル。前述のような池田湖
の特殊性を考えるならそれに近い数値のものが実在する可能性があると思われる。 
そんなわけで、私はイッシーの正体は巨大なウナギのことだろうと思っていた。     

ところが数年前、私のこの仮説を覆す出来事があった。               
平成3年夏、鹿児島地方を未曾有の大洪水が襲った。8.6水害というのがそれである。
さらに9月21日には巨大台風が鹿児島を直撃したのである。このため池田湖を養殖し
ていたコイ、ウナギのイケスが壊れて2万匹が逃げたといわれる。             
さて、かねてから丘の上の観測だけでは、イッシーの鮮明な姿を捉えることはでき
ないと思っていた私は、まもなく4人乗りのゴムボートを購入した。             
それは水上調査の初日のことであった。                         
仲間とボートに乗り込んだ私は早速イッシー最多目撃地帯に向かった。そこは湖の裏側
にある新永吉(しなげし)という場所である。深さ約200メートル。台風一過の静けさであ
る。風もなく、湖面には細波一つ無かった。                           
ふと気がつくと、ボートから約20メートルのところに、3メートルばかりの岩らしきも
のがあるではないか。しかしそこは深さが150メートルぐらいあるところで、そんなところ
に岩などあるはずがない。怪しんで見ていると、それが動いているではないか。見えてい
る部分だけで3メートルぐらいだが、残念なことにその下は光の反射でよく見えなかった。
ネッシーなどの目撃談で「大きなコブのようだった」というのがあるが、そんな話を聞く度
に「なぜもっと詳しく見ないのだろうか?」と悔しい思いをしたものであるが、実際は本当
によく見えないのだ。「コブ状の物体」としか言いようが無いのである。           
見たままを言えば、色が緑がかったような淡い茶褐色で、小さなそばかす状の斑点
がついていた。形状はコブはコブでも、なだらかな丘という感じである。表面はザラザラ
しているように見えたが、もし触ってみたら、ヌメヌメしていそうな気もした。その肌に一
番近いものを挙げればスッポンの甲羅だと指摘できる。                  



初めての水上観測でいきなり遭遇したわけだ。                    
幸運だと思う人もいるだろうが、実は急に怖くなって、全速力でオールを漕いだの
である。するとその「胴体」も20メートル程の距離をとりながら並走してくるではないか。
もし体当たりでもされたらボートは転覆、私たちは湖に投げ出されてしまうだろう。そし
てその得体の知れないものに喰われでもしたらと、恥ずかしながらそう思ってしまった
のだ。                                                
そのものは執念深く並走してくる。私たちは懸命に岸に向かって逃げた。150メートル
ほど漕いだところでその物体は水中に沈んでいった。                   
その時の私の格好というのは、海パンに水中メガネ。もしイッシーに出会ったら迷
わず飛び込んで正体を見極めようと思っていたのになんとも情けない話である。   

これが私が体験した目撃の全てである。                        
この話をすると「写真を撮ればよかったのに」と言われる。実を言うとカメラは持ってい
たのだ。だから撮るには撮った。しかしなにしろ動転していて、その物体が沈んでから
撮ったので、ただの波なのか何なのかよく分からない写真になってしまったのである。

それからも池田湖の観測は続けているが、はっきりとした遭遇には至らないでいる。
私が見たものは、ウナギのような細長いものではなく、何か平べったく丸いものであっ
たといえる。一体その正体はなんであろうか?                       



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