〜霧島茶の原点である“霧島大茶樹”を守る〜

霧島大茶樹保存会

龍馬も飲んだ霧島茶

霧島茶の新茶
平成22年4月撮影

荒茶の生産量が全国2位を誇るお茶どころ・鹿児島。山の美しい空気や良質の水、寒暖の差が激しい気候などお茶栽培に必要な条件に恵まれた霧島にも数多くの茶栽培農家や製茶工場があり、“霧島茶”の愛称で親しまれています。温暖な気候の鹿児島では全国に先駆けて4月の上旬には南から茶摘みが始まりますが、霧島でも4月の中旬頃から行なわれ、あちらこちらで「新茶」のノボリがはためくように。一年分の栄養がギュッと凝縮された新芽を摘み取った新茶は、味も香りも格別ですね。
さて、幕末の志士・坂本龍馬が妻のお龍を伴って旅をしたことで知られる霧島ですが、ふたりも旅の途中で霧島茶を飲み、ホッと一息をついたと言われています。

樹齢300年を超える“日本一の大茶樹”

霧島大茶樹
平成22年4月撮影

龍馬夫妻が歩いた中津川街道の周辺、今の霧島市牧園町持松には、かつて「日本一」と認められた大茶樹があったそうです。江戸時代初期に植樹されてから300余年。高さ約4.5メートル、枝張りが南北に9.6メートル、東西に7.5メートルにも達するほどの巨木でした。その大茶樹から採れた煎茶は“不老長寿のお茶”として珍重され、戦前まで一番茶は霧島神宮と鹿児島神宮に奉納されていたと言われます。昭和12年には国の天然記念物の指定を受け、地域の方々の誇りだった大茶樹でしたが、昭和20年頃の植え替えの際に害虫の被害を受けて枯死してしまったのだとか。この大茶樹があった頃に挿し木をして成長した樹が、現在「霧島大茶樹」と呼ばれているものです。

保存会によって守られる二代目大茶樹

霧島大茶樹保存会会長・邊田さん
平成22年4月撮影

平成18年、この貴重な茶樹を大切に守っていこうと牧園の茶農家の有志メンバーが「霧島大茶樹保存会」を発足。発足以来、会長を務めているのが中津川地区で製茶業を営む邊田孝一(へんたこういち)さんです。
「霧島大茶樹」が植えられている場所は初めての人にはわかりにくいとのことで、邊田さんに案内していただき、幹線道路から車一台が通れるくらいの小道に入ってしばらく走ると、茶畑の横に整備された広場に出ました。その奥に立つ2本のこんもりと茂った樹が「霧島大茶樹」です。今年で樹齢127年目という茶樹は、幹回り約80センチメートル、枝張り約6メートル、高さ約4.5メートルという大きさで、いつも茶畑で見ている茶樹とはまるで別物。威風堂々とした佇まいに圧倒されます。自然のままの形で大きく育った茶樹は今では大変珍しく、これほどの大茶樹は国内でも有数なのだとか。

樹齢127年の大樹にも新芽が芽吹く

霧島大茶樹の新芽など
平成22年4月撮影

「ほら、新芽が出ているでしょう」と言う邊田さんの指先には、つややかに光る黄緑色の新芽が芽吹いていました。1960年代の後半から途絶えていたという大茶樹の茶摘みですが、霧島大茶樹保存会の発足とともに、「大茶樹茶摘み祭り」という形でおよそ40年ぶりに再開。大茶樹の周りにやぐらを組み、絣の着物を身に付けた”茶娘”たちによって昔ながらの茶摘みの様子が再現されたそうです。地元中津川地区の子ども達による茶摘み歌、大茶樹の茶摘み、釜炒りや手もみ体験なども行なわれ、当時の茶摘みの様子が蘇ります。
手摘みされた茶葉は釜炒り製法でお茶になり、昔のように霧島神宮と鹿児島神宮に奉納されるのだとか。大茶樹を傷めないためにわずか500グラムほどしか作れない貴重な新茶です。

「霧島大茶樹」は地域の誇り

霧島大茶樹茶摘み祭り
写真提供:邊田さん

今年の「大茶樹茶摘み祭り」は5月9日(日)に開催予定。茶摘みや釜炒り体験のほか、地元の女性たちが釜で炊いたご飯のおにぎりや芋の天ぷらなどもふるまわれるそうです。
「来年は霧島で“全国お茶まつり”が開かれます。そのためにここ(大茶樹のある広場)をかまどなども備えた公園として整備するんですよ」と邊田さん。“全国お茶まつり”はお茶の品評会も兼ね、全国の主要産地が一堂に会する大イベントだそう。邊田さんの営む「ヘンタ製茶」は平成2年に最高の栄誉である農林水産大臣賞を受賞しており、地元開催の来年は再度の受賞に向けてさらに力が入ります。
「国の天然記念物に指定された初代大茶樹の存在は、地域の人にとって大きな誇り。そこから霧島茶の歴史は始まったと言えるでしょうね。その流れを汲む霧島大茶樹を守っていくことが私たちの役目です」と邊田さんは穏やかな眼差しで語ってくれました。

■名称 霧島大茶樹
■所在地 霧島市牧園町持松690-2
■お問合せ 0995-76-1111(霧島市役所牧園出張所)
■アクセス 霧島高千穂リゾートランドより約12km、車で約18分