ケアマネに必須!医療の知識
指定介護療養型医療施設来仙医院 院長 來仙 隆洋

ケアマネが、将来の不安に、ため息をついている。居宅介護事業所管理者要件は先送りとなり、ケアプランの利用者自己負担も、棚上げとなり、まずは胸を撫でおろしているが、向かい風の如し、問題は山積している。さて今回は、国がケアマネに求めている、もっと専門職として、医療の知識を身につけるべし、との厳しい要求に対して、対策を練りたいとの思いで、筆を取った。
 殊に、福祉系出身のケアマネにとって、医学(看護学も含む)を理解することは、生半可ではない。まず医師として、一人の人間が教育されていく過程を、認識してみよう。最初に待ち受けるのは、医学部入試。私が高校生の頃は、東京大学が神格化されていたが、今や大学受験のトップエリート達は、医学部を狙う。鹿児島県に は、ラサール学園があるが、高校卒業生約 240 人中、半数以上が、医学部志望らしい。そ の事実の、是非は問わないが、医学部入学が、如何に難関であるかは、想像に難くない。さて入学したのちは、まず生理学・生化学・薬理学といった、基礎医学を学ぶ。人間の体内で、病気が発症するメカニズムと、その病気の治療について理解するため、乗り越えなければならない、重要だが、退屈な学問でもある。並行して、解剖学にも精通しつつ、各 年度の進級試験(医学部は 6 年制)をこなし、臨床医学を吸収しながら、卒業試験から国 家試験に臨む。個人的に、卒業試験も国家試験も、二度と経験したくない、過酷なイベン トである。さらに無事に医師の資格を取得しても、2 年間の研修医制度が待ち受けているの で、様々な知識を咀嚼せねばならない。その後、自身の望む専門領域の研鑽に進める事となる。
 詰まるところ、何を伝えたいかというと、医学を習得するには、並々ならぬ努力が必要で、基本が出来ていない職種の方に、病気や治療を解釈しろという論法には、無理があると思っている。ではケアマネは、何を指標にすればいいか。これはもう、医療を熟知した、主治医の見識を拝借する、それに尽きよう。ただし、国の求めを却下する訳にもいかない。そこで、私なりに、この程度は分かっていて欲しいと考える、医療の知識を、こ の先述べたい。

脳血管障害
認知症
帯状疱疹
骨折
誤嚥性肺炎
うつ病
眩暈(めまい)
顔面神経痛
低体温症
熱中症
閉塞性動脈硬化症
脊柱管狭窄症
BPSD
肺結核
関節リウマチ
パーキンソン病
慢性硬膜下血腫
高血圧症
糖尿病
脂質異常症
肩関節の疾患
変形性膝関節症
急性腹症
CKD
心不全
慢性閉塞性肺疾患


※ACPにおけるケアマネの立場

 

●脳血管障害

なぜ最初に脳血管障害か?私が、脳神経外科医が出自ということにも起因するが、この後論じる、認知症を理解するための準備にも繋がるゆえ。さて脳血管障害とは、脳の血液循環を保持する血管に、トラブルが発生した状態であるが、ごくシンプルに、詰まるか、破れるか、こう覚えておこう。後者の´破れる´は単純明快な、破裂である。複雑なのは、 詰まるほう。血管が詰まる機序には、血栓と、塞栓の、2 通りがある。血栓から説明しよう。 脂質異常症という病気があって、血中のコレステロール、特に、LDL-コレステロールと呼 ばれる、いわゆる、悪玉コレステロールが正常値を超えた状態を、例にしよう。血管は、無論パイプ状で、その内側を、血液が流れているわけだが、悪玉コレステロールが増える
と、その内側の部分に、粥状硬化と称される、べったりした肥厚が形成されていく。その肥厚が大きくなれば、当然のことだが、血管が詰まってしまう。これが、血栓症の様態である。では、塞栓とは、如何なるものか。心臓の拍動リズムが不規則になる、不整脈とい う状態があるが、その 1 疾患に、心房細動がある。80 歳を超えると、発症することが多く、 手首で脈を取ると、明らかな不整を認めることができる。ちなみに、親指付け根の拍動しいる血管を、橈骨動脈という。余談であるが。さてその心房細動だが、心拍不整から、心臓からの血液流出が不十分になり、心腔(心臓内)に血液が貯留しやすく、すると小さな血液塊(塞栓子)が生じ、これがはずみで、脳内に運ばれると、どこかの血管を詰まらせる。これが塞栓症である。血栓も塞栓も、最終的には、脳の血管を詰まらせるわけだが、血栓症では緩やかに、塞栓症ではダイナミックに、症状が引き起こされるイメージがある。
どちらも、よく聞く脳梗塞につながる。では破裂に移ろう。高血圧症を放置しておくと、脳の血管に余計な圧がかかり、やがて破けて出血する。すなわち脳出血である。また、人によっては、脳の血管が分かれているところに、小さなこぶを持っていて(脳動脈瘤)、これがある日突然破裂するケースがある。クモ膜下出血である。おさらいをしよう。脳血管 障害には、脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血という 3 つの病態がある。脳梗塞には、血管の 詰まり方から、血栓症と塞栓症の 2 種類がある。3 つの病態は共に、突然に人を襲うので、 脳卒中と括られている。頭の整理はついたであろうか?脳血管障害は、後遺障害を残すという点から、厄介である。半身の軽い麻痺や言語障害、認知機能障害、ひどければ寝たき
りに至る。予防が一義的で、生活習慣病を持つ人は、その是正を。規則正しい生活リズム や、スポーツを習慣付けることも肝要である。喫煙は、もってのほかだ。
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●認知症

2025 年、65 歳以上高齢者の 5 人に 1 人が、この疾患に罹患すると、予測されている。 その数は、700 万人に至る。これはもう、喫緊の国策対応を要する、ビッグテーマである。
その定義から、確認しよう。認知症とは、生後いったん正常に発達した精神機能が、慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態、とある。つまり、先天性脳疾患や、発達障害の人達には、また違う理解が必要だということ。だから、ごく一般に社会生活を送ってきた高齢者に、怪しげな兆候が認められた時に、認知症を疑うことと なる。念のために。実は、認知症をきたす疾患は、50 余に及び、それを勉強するのは、と ても苦痛なので(私でも)、ケアマネ諸氏は、認知症とおぼしき利用者とご縁ができたら、次の 4 疾患のどれなのかな、と考えるのが賢明である。
@ アルツハイマー型認知症
A レビー小体型認知症
B 血管性認知症
C 前頭側頭葉変性症
では、アルツハイマー型認知症(AD)から進めよう。AD は変性疾患と呼ばれる、脳の部分的 変化がベースにあって、要は、脳の一部が次第に萎縮をきたしていく。萎縮に伴い、認知機能障害や、精神症状・行動障害が進行していくわけだが、まずは、認知機能障害から説明したい。その変性過程は通常、側頭葉の内側領域、海馬と名付けられた場所から始まる。
その病変部位を反映して、最も早期に出現する症状は、近時記憶の障害。約束を忘れたり、身の周りの物の置き場所が分からなくなったり、同じ内容を繰り返し話したりと、まるで、泥酔した我が身のような振る舞いで、周りの方を当惑させる。また遂行機能障害、これは、金銭管理、調理といった少し複雑な作業が、困難になる。さらに進めば、言語障害、計算
障害、視覚構成障害が認められる。私は外来で、認知症が疑われる患者さんには、紙に円 を描いて、12 と 6 を明記したのち、「10 時 10 分に、時計の長針・短針を描いてみて」とリ クエストする。視覚構成の障害が無いか、のテストだが、上手く描けない人も多くて、同伴の家族が、絶句することもある。認知機能障害はこの位で、精神症状・行動障害に移ろ う。BPSD である。比較的早期から、アパシーと称される、自発性低下・無関心が出現する。 また、物取られ妄想も、割と初期からの症状で、やり玉に挙げられるのは、普段最も気遣いをしてくれる、娘さんやお嫁さんらしい。お気の毒に。その後、徘徊や興奮、易刺激性 が目立つようになるのは、皆さん良く存じておられよう。AD の進行状況をグラフ化した、 FAST を添えてあるので、参照頂きたい。重要なことは、AD は、最終的には廃用から寝たき りに至るが、その過程は 10 年位を見込まねばならない。介護する家族に、その将来像を指 し示し、家族が疲弊しないよう、最適なケアマネジメントを勧めてあげるのが、ケアマネ の腕の見せ所だと思う。続いて、レビー小体型認知症(DLB)である。私は、3 徴を覚えて もらいたいと考えている。一つ目に、認知機能の変動。二つ目に幻視。三つ目に、パーキ ンソニズムである。順を追って話をしよう。AD であれば、低下した認知機能が、明日回復 するという事象は、起きえない。DLB では、午前と午後や、日によって、あるいは週単位で とかで、全く普通の場合と、別人かと思えるほど調子が悪いように、状態が変動する。2 日 ぐらい寝たきりで、どんな刺激にも反応しない人が、次の日には、爽やかに活動し、会話も成り立つとか。将に変動性。そして幻視。何もないところに何かが見える。私の経験では、小人が多い。曰く、「夜中に目が覚めると、枕元に数人、小人がいるんです、先生」。最初はオカルトかと思ったが、やがてこちらも納得。時には、関東にいるはずの、娘さん
も登場したりするようだ。要領を得ると、患者さん達に、「歳を取ると、見えないはずのものが、見えたりするから、心配いらないですよ。第一、小人は、悪いことしたりしないでしょ?」と語れば、皆さん安堵し同調されている。幻視に少し似ている錯視も知っておこう。長い紐が蛇に見えたり、ハンガープラス着物が、人に見えたり、等。そして最後のパーキンソニズム。パーキンソン病という、全身の筋肉が固くなり、腕が振るえる病気があ るが、その状況に類似する。ただ DLB の場合、振戦と呼ばれる、腕の振るえの頻度は少な い。全身の筋肉が固くなるので、嚥下、いわゆる飲み込みも困難になるので、誤嚥に要注 意!下肢の筋肉も同様で、転倒の予防が大切。以上の 3 徴を感じ取ったら、DLB を疑おう。
次は血管性認知症(VaD)。先に述べた脳血管障害である、脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血 を契機に、認知症を呈することとなるが、脳梗塞の中には、ごく細い血管が少しづつ詰ま り、潜在性に、かつ緩徐に進行するものもある。ラクナ梗塞と診断されるケースだ。AD と 比して、記憶障害は軽く、うつ状態や、不安が強いとの報告もあるが、それのみで鑑別できることではない。頭部の画像診断が頼りとなろう。一般には、イベント後、歩行障害、易転倒性、尿失禁、偽性球麻痺、アパシー等が、比較的共通して認められる症候となる。 最後に前頭側頭葉変性症(FTLD)。 著明な人格変化や行動障害が前景に。具体的には、まず 社会性の欠如。葬式の最中に笑う、診察中に鼻歌、万引き、交通ルールの無視。本人悪気はなく、指摘されても是正なく、同じ過ちを繰り返す。次いで常同行動。家庭では同じものを食べ続ける、常同的食行動。同じコースを散歩、あるいはドライブする常同的周遊。時間軸上に展開すれば、時刻表的生活パターンを呈する。食行動にも変化があって、大食 いや嗜好が変わり、甘党になったり。頭部 CT・MRI で前頭葉・側頭葉の萎縮が強くなるの は、言うまでもない。認知症に関しては、一応こんなところで。BPSD への対応を、後述。
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●帯状疱疹

小児期に水痘、俗にいう水疱瘡に罹った記憶があるだろうか?現在は、小児期のワクチン 接種が普及されていて、逆に、成人の水痘が増加しているらしい。私も 30 過ぎて水痘に罹 り、大変な目に遭った。風邪気味だなと思っていたら、前額(おでこ)とお臍のすぐ脇に、 水疱が出現。瞬く間に全身に広がり、40 度台の熱発が 3 日持続。忘れもしない、イボカエ ルの如き痛ましい姿。社会復帰できるのかしら、と不安であったが、概ね改善。
話が脱線したが、帯状疱疹とは、水痘の発症原因である水痘ウイルスが、なぜか脊髄に迷入し、高齢になって、体力が低下した際に、発症する。脊髄デルマトームによる皮膚支配に一致し、片側性に、まず神経痛を感じ、その後、紅斑・水疱が生じる。顔面部にできると、重症化やすく、入院管理がお勧め。私の運営する特別養護老人ホームでも、年に数例は、必ず 治療している。介護職の気づきに救われている。ケアマネ諸氏も、見落としないように。
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●骨折

高齢者には、転倒による骨折が多発する。骨が脆弱であるからだ。なぜ脆いのかといえば、骨粗鬆症が潜んでいるから。多分。では、骨粗鬆症について、学習してみよう。我々成人の骨は、もう成長はしない。一定の大きさに保たれている。でも骨の内部では、常に新陳代謝が繰り返されていて、それには二つの細胞が、関与する。破骨細胞と骨芽細胞である。
古くなった骨の表面に、破骨細胞が登場して、そこを貪する。貪された部分には、穴が開くわけだが、その穴に、骨芽細胞がセメントのような物質を補填し、新生と相成る。そんな作業が、我々の体内で、粛々と行われている訳だ。ところが、そのバランスが崩れることがある。特に、閉経後の女性の、性ホルモンの欠乏がそれにあたる。性ホルモンの欠乏が、破骨細胞の働きを活性化させ、骨が虫食い状態になる。これが骨粗鬆症の、病態である。少しいい加減だが。で、虫食い状態になった骨の状況を、骨密度が低下するとか、骨量が減少するなどと、評価することとなる。とにかく、骨が脆くなっているのは、理解で きるであろう。男性にも発症し、喫煙やアルコール大量摂取、運動不足などが誘因となる。 脆い骨ゆえに、転倒すれば、易骨折性となる。よく見受けられるのは、尻もちをついた際の、脊椎圧迫骨折。転倒時の、大腿骨近位部骨折。同じく転倒時の肩関節周囲や、手関節周囲の骨折が挙げられる。寝たきりで拘縮のある場合、オムツ交換で下肢を動かした際の、大腿骨近位部骨折も稀ではない。歩行可能であった方が転倒し、立位が取れなくなったら、ためらわず主治医に連絡を。骨折周囲の血管には、塞栓ができ易く、肺に飛んだら大変で すから。
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●誤嚥性肺炎

それまで平穏無事に過ごされていた寝た切り高齢者が、熱発しやすくなった時は、肺炎か、尿路疾患をまず疑いなさい。と、自施設のスタッフには教えているが、概ね、該当しているようだ。その肺炎の内でも、注目すべきは誤嚥性肺炎。誤嚥性肺炎の大きな特徴として、症状の発現が定型的でないことを注視したい。一般に定型的な肺炎の症状は、咳、痰、発 熱、呼吸困難になるが、いつもより元気がない、食欲低下、意識障害、不穏、せん妄、失禁等が非定型的症状とされている。高齢者の様子がいつもと違うな、と感じたら、誤嚥性肺炎をまず、考えてみたい。例えば脳血管障害があれば、夜間就眠中の嚥下機能低下が著しく、唾液をうまく食道に飲み込めず、口腔の微生物を含む分泌物が、気道内に入り込み、炎症を惹起する。食事介助でも誘因になるので、困ったものだ。かってオスラー博士とい う人が、「肺炎は高齢者の友」との明言を残したらしい。
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●うつ病

うつは、芸術の原点だと、個人的には思っている。クラシック音楽や絵画の巨匠達が、この病気に苦しんだという噂は絶えない。しかしながら、ケアマネ諸氏も私も、その世界に立ち入ってはならない。一時期、´うつは心の風邪´などと表現されたが、そんなに生易しいものではない。社会生活が儘ならなくなる可能性もある、侮れない病気なのだ。では、うつ病について、理解しよう。入口がある。数日続く不眠症と、それに伴う食欲低下が、前駆症状である。この状況で、不眠を解消すれば、ストップが掛かる。しかし、この位で 弱音は吐けないなどと、無理していると、うつに移行する。うつには、3 徴がある。抑うつ 気分・精神運動制止・身体的愁訴である。抑うつ気分は、暗くてもの悲しい様子。精神運動制止は、記憶障害、反応や動作の緩慢化。身体的愁訴としては、脱力感、倦怠感、胃部不快感、頻尿、便秘、悪心など。特に高齢者では、孤立的環境から生じる、心理社会的ストレスに曝されることも多く、うつ病発症の高いリスク状態にある。また、抑うつ気分が目立たず、身体的訴えのみが前景に立つケースもよくある。そしてもちろん、うつになれ ば、自殺願望が強くなるので、配慮を。
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●眩暈(めまい)

若い方から高齢者まで、よく訴えのある、めまい。めまいの、原因となる疾患を特定する ことは、結構難しくて、診察医を苦しませることもある。後期高齢者(75 歳以上である) に特化すれば、平衡機能の加齢による劣化や、筋力低下、関節・靭帯の硬化に伴い、その症状が、動作時のふらつきであり、つまり、体動時や歩行時に体が揺れた感じが出る「動
揺感」や「転倒傾向」が特徴的ではある。また、降圧剤や睡眠導入剤の服用の副作用としてのめまい。これも念頭に置きたい。しかし、最も重要なのは、生命を脅かす可能性のある、危険なめまいで、脳血管障害に随伴するめまいが挙げられる。めまい感の自覚に付随して、手足や顔面の麻痺、呂律が回らない、起立・歩行が困難なケースは、躊躇わずに救 急車を要請しよう
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●顔面神経痛

めまいの項で、顔面の麻痺と記述したので、取り上げよう。顔の表情筋をコントロールするのが、顔面神経と名付けられた、末梢神経である。利用者の表情が´あれ、いつもと違うな´と思ったら、観察して欲しい。どんな変化かというと、まず麻痺側の眼裂が開大し、目を見開いた感じに見える。目をつぶってもらうと、上下の眼瞼が閉じず、白目がみえる。
正確には、眼球結膜というのだが。勿論、麻痺してないほうは、しっかり閉じる。さらに、麻痺側の口角、唇の端にあたるが、下がってみえる。タレントの、ビートたけしさんを、実例で挙げておこう。あの方は、右口角が下がっていて、特に笑われた時を、注目。もしこの文章が公になると、「なんだ、馬鹿野郎!」とか怒鳴られそうだが、私個人は、日本国民で、最も文化的な方と、尊敬している。本当に。さて簡単な検査として、「ぱぴぷぺぽ」と発音してもらおう。麻痺があると、うまくできない。補足だが、両側性の顔面神経麻痺 の患者さんとお会いしたことは、私の経験上は、未だ無い。
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●低体温症

軽く実体験した、この疾患。時は 4 月の宮崎、青島海岸。サーファーの私は、穏やかな天 気の下、心地良さげな波に向かった。やがて 30 分も過ぎたころ、海の上で強い倦怠感に襲 われ、水面を漕ぐ力を失っていった。これは只事ではないと、急ぎ岸へ戻った。実は、ウエットスーツと呼ばれる、防水・防寒着の背中のジッパーを閉め忘れ、サーフィンに臨ん
でいて、とどのつまり、全身が海水に浸されていたのである。さて着替える最中は、震える上に、身体硬直しはかどらず、やっとの思いで乗り込んだ車中、暖房マックスで、温め て帰路 2 時間半。自宅に着くころ、何とか震えが治まった。その後は、サーフィンの折、 ウエットスーツのジッパーを何度か確認することを、怠らない。さて低体温症とは、深部 体温が 35 度未満となることで、症状としては、震えから嗜眠、錯乱、さらには昏睡、死亡 へと進行。高齢者は、しばしば温度感覚が低下し、移動能力およびコミュニケーションが障害されているので、非常に寒冷な環境に、居続ける傾向がある。炬燵に籠り、部屋はひんやりという、よくあるパターン。それで、屋内であっても、低体温症が生じやすい。訪 問時、怪しい状況と判断したら、とりあえず毛布等々で包んであげて、119 番へ連絡を。
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●熱中症

低体温症の後は、対照的なこの疾患が宜しかろう。真夏というよりも初夏、特に湿度の高い、梅雨の頃、風通りの悪い状況で、生じ易い。私の住んでいるのは、自他ともに認める田舎町(村に近い)なので、近所に住んでいる高齢者の部屋は、とても熱中症に至りやすい、環境にあることが多い。同居する家族は、縁側等で涼を取っていたりするのだが、、、。
症状であるが、眩暈、頭痛、疲労感、嘔吐、さらに進めば昏睡、痙攣等。ケアマネとしては、予防に配慮してあげたい。扇風機は最低限必須。エアコンを、介護保険で支給できればいいが、無理か。認知症の方だと、食事摂取や水分補給の有無も、確認し辛いので要注意。
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●閉塞性動脈硬化症

医師として、絶対に見落とすまいと、この疾患については、目配りをしている。それでも 時折、臍を噛む思いをするのだが。さて閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans 以下、 ASO と略す)は、末梢動脈疾患に含まれ、主に問題となるのは、下肢の動脈閉塞となるが、 広範に、脳動脈・冠動脈・腎動脈等にも閉塞傾向を、きたし易い。ASO を早期発見するた め、下肢の動脈における「脈拍触知」、これを常に心がけている。高齢・男性・喫煙・生活習慣病(糖尿病・高血圧症・脂質異常症)を有する者は、発症のリスクが高いとされるが、私的には、女性だから安心という印象でもない。下肢の自覚症状としての、冷感・しびれ感・間欠性跛行に注意を促したい。ちなみに間欠性跛行とは、歩行を続けると、下肢の痛みと疲労感が強くなり、足をひきずるようになるが、暫く休むと、再び歩けるようになる症状。「脈拍触知」はどこで確認するかと言えば、私の場合、膝の裏側にある膝窩動脈と、 足の r 甲の真ん中辺りの、足背動脈を選ぶ。ASO であれば、拍動が弱い、あるいは触れな い。残念なことに、ASO が重症化すれば、下肢の切断を余儀なくされる。故に、見落としたくない。
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●脊柱管狭窄症


加齢による、腰椎の変性により、腰椎変形性脊椎症と呼ばれる疾患が引き起こされ、脊柱 管狭窄症を合併することがある。ASO との繰り返しになるが、その特徴的な症状は、しば らく歩くと脚の痛みやしびれ、脱力感等により歩けなくなるが、休息により再び歩けるようになる「間欠性跛行」を呈すること。あと後屈時、つまり背中を反らした際に、腰から 下肢に痛みが生ずる点も、特徴。ASO との判別は、「脈拍触知」が、大切なことは言うまで もない。病態について、もう少し掘り下げてみよう。背骨(正確には脊柱)には、脳から続く神経である、脊髄が通るトンネルがあり、これを脊柱管と呼ぶ。主に腰椎の骨、靭帯、 椎間板の異変により、脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫された状態と、理解して欲しい。
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●BPSD

今後大きくクローズアップされるのが、この課題。自宅で介護を受けている、認知症の方 に、BPSD が目立ち始めると、家族は大慌て、ケアマネも大わらわとなる。そもそも BPSD、 認知症の重症度に関連せず、予期せぬ時期に出現もする。私の場合、初期の認知症患者さんへの、治療の介入時に、家族に対し「この先、いろいろな症状が現れるでしょうが、一つずつ丁寧に、解決していきましょう」と伝えるよう、心がけている。ところで認知症は、生活習慣病と同様に、加齢とともに進行する、一般的な脳の変性疾患であり、重症化を少しでも食い止めるには、介護力が重要である。パーソンセンタードケアという概念や、ユマニチュードの実践など、十分効果が見込めるケアを、各自研鑽・吸収してもらいたいと考えるが、私としては、家族が最も苦慮するであろう、以下の3つの症状について、記し てみたい。
@ 徘徊 夕方から、夜間にかけて多くなる。行方不明、交通事故などの被害に遭遇しかねない。家庭内での役割喪失を憂いての、行動化と指摘する専門家もいる。然らば、負担にならない 程度の、何かしらの役目を担ってもらうのは妙案かもしれない。晩ごはん後の洗い物とか。 ちなみに、私は、嫌いではない。
A 不潔行為 我が家には、猫が二十数匹いて、無論、外出を禁じた屋内版。連中は、至る所にマーキングするが、怒ってもしょうがないので、まめにふきふきする。しかし、人間がその行為に及べば、事態は混沌とする。介護者からの虐待も、稀ではあるまい。さて問題は、放尿と弄便。放尿は、歩行障害と、実行機能障害、見当識障害が複雑に絡み、事に至るのであろうが、ポータブルトイレの設置は、必須だろうか。また、オムツを当てている方の弄便に対しては、腹帯をはめて、オムツ内に手が届かぬような配慮が、功を奏したケースを見た。こまめな、オムツチェックは欠かせまい。以前に、ツナギのような服を着せられたお婆ちゃんの往診にも出向いていたが、家族にとっては、苦肉の策だったのであろう。そういえ ば、聴診する度に抓られたものだ。今では懐かしい思い出である。
B 暴言・暴力 ご本人の心理的´不安と混乱´が、その原因と考えられているが、対処法に苦慮する場合 が多い。早めの投薬が、有効な気がする。それから、周囲の刃物類は撤去。これは絶対。

あくまで私的な勧めだが、東京都の葛飾区医師会が、認知症・BPSD 介護マニュアルを作成 していて、家族向けの冊子だが、その中に BPSD 対応チャートが添付されている。ケアマネ 諸氏にも、利用して欲しい。インターネットで、索引可能。
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●肺結核

業務中は、必ずマスクを嵌める私。裏には、厚くガーゼを当てている。何があっても、菌とウイルスに曝されまいという、意思の表れであろうか、往診時も、外しはしない。とこ ろで以前「国民病」と呼ばれ、昭和 10 年から 25 年にかけて、我が国の死因第1位に君臨 し恐れられていた病気、肺結核。生活環境の改善、また抗結核薬の開発も相俟って、その
発症は、年々減少してきたが、この頃様相が変化しているらしい。平均寿命が延びたことで、相対的に高齢者結核患者が増加し、そこからの若年者への感染が広がっている。また 20 歳代の新登録患者の半数が外国出生者という、社会のグローバル化による影響。さらに 医療従事者の認識の緩みも、背景とされている。基本的な事だが、肺結核を発症した人が咳をすると、結核菌が飛散され、それを吸い込んだ他者が、感染。肺結核は、空気感染する。ここで想定をしよう。あなたが、何度も自宅で面談を重ね、関わりの深かった要介護者、濃厚接触者とまでは呼べないだろうが、ある日肺結核を発症したことが判明。あなた が、その方から感染を受けた可能性は、概ね 30〜40%。ただし、感染と、発症は別物。健 康な肉体のあなたが、感染はしたが、発症する確率は、せいぜい 10%。90%の場合は、冬 眠状態の結核菌を、体内に保持し、天寿を全うする。しかしながら、感染した時点から 2 年が、発症しやすい期間なので、その間は、保健所からの指導に準じた、検査を受けねばならない。気の重い日々が、しばし続くのは間違いない。だから皆さんも、予防は念入り に。私のように、マスクを着用すべし。
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●関節リウマチ

関節リウマチ(rheumatoid arthritis 以下 RA)は、膠原病の代表的疾患の 1 つで、免疫異常 による炎症に基づく、関節滑膜の異常な増殖と、それに引き続く、多発性の骨破壊性関節炎を主体とする、慢性進行性の炎症性疾患である。補足していこう。膠原病とは、我々の体に広く存在する、コラーゲンが慢性的に炎症する病気。コラーゲンは、全身各所にくまなく分布しているため、障害が身体の隅々に至る。さて、我々の体では、病原体などの異物が侵入した際、免疫機能が働き、具体的には、白血球や免疫グロブリン(抗体とも呼ばれる)が、異物と戦い排除する。免疫異常では、免疫不全と自己免疫疾患が知られている。 抵抗力が低下して、感染症に罹り易くなったりするのが免疫不全。AIDS を連想して欲しい。 かたや自己免疫疾患では、自己の細胞を、なぜか異物と誤って攻撃してしまう。RA の病態 は後者で、関節(絵、参考)の周囲を囲む滑膜が損傷を受け、その部位が増殖し、やがて 骨にまで波及していく。RA の骨破壊は、徐々に進行するものと考えられていたが、発症し て 1〜3 年の早期に、急速に侵されていくことが判明した。一旦破壊された骨は再生されな いので、つまり、発症早期の積極的治療介入が必要となる。私が RA の診断について学んだ 頃は、朝の手指のこわばりが、判断の一つに挙げられていたが、それではかなり進行した状況らしく、最近の診断基準を添えておく。滑膜が炎症し、関節が腫れたり、圧迫痛を感 じたら、診察を受けるサインと考えたい。RA は、全ての年齢層で発症しうるが、40〜60 歳代に罹患率のピークがあり、男女比 1:5 と、女性に多いことを申し添えておく。
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●パーキンソン病

パーキンソン病は、中高年者の患者が多く、加齢が主な危険因子であることから、超高齢社会を迎えた我が国では、患者数は増加の一途を辿ることが、予想されている。さてその病因であるが、脳の中に黒質と呼ばれる部位があり、そこに集簇しているドパミン神経細胞から分泌される、ドパミンという化学物質の減少による。こんな展開に傾くと、催眠術に罹ったかのように、瞼が重くなる方が殆どであろう。サラリと、ドパミンが不足すると、パーキンソン病になる!そこだけは押さえておこう。ところでパーキンソン病の診断を、教科書的に述べれば、筋強剛・無動・振戦となるが、症状として留意したいのは、何か歩きづらい、手が動きにくい、手足が震える、位を覚えておこう。珍しく治療の話に振るが、パーキンソン病治療のガイドラインに、「薬物治療の開始を遅らせることの利点は明らかでない」と、明確に述べられている。早期に薬物を開始すべし、という意味であろう。先に述べたように、ドパミンが不足すると、パーキンソン病に至るので、ドパミン様の物質を補填することが、治療の主流である。レボドパと称される薬剤だが、このレボドパ、血液中で割と速やかに分解され、薬効が消失してしまう。それに伴い、体調が優れなくなるウェアリングオフという現象。いずれ何処かで遭遇する言葉なので、脳裏に仕舞っておこう。
ちなみに便秘や嗅覚障害(匂いの判別が覚束なくなる)、これらがパーキンソン病発症に先 行することが、注目されている。知っておいて損はあるまい。
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●慢性硬膜下血腫

高齢者は転倒しやすく、その際に、頭部を打撲すると、この疾患の発症リスクが高まる。 打撲の痕がはっきりしないと、見当をつけるのも難しくなるが、ともかく、転倒後には、 要観察と考えたい。典型例では、受傷後 3 週間から 2 か月位の間に、頭痛・片麻痺・記銘 力低下・見当識障害・意欲低下等が、徐々に進行する。頭部に外力が加わった時、脳表面
の、細かな静脈が損傷され、緩徐に出血することで、発症に至る。認知症に似た症状を呈するので、介護者等が、この疾患を思い浮かべ、疑いを抱くことが大切。頭蓋骨に小さな孔を開け、チューブで溜まった血腫を吸い出せば、劇的に症状は改善する。認知症と誤診 してはならない、その意味で重要な疾患。
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●高血圧症

馴染み深いと思われる、生活習慣病 3 疾患と言えば、高血圧症・糖尿病・脂質異常症に他 ならない。まずは、高血圧症から述べよう。高血圧症は、日本で 4300 万人が罹患していて、 これはほぼ日本人の 3 人に 1 人という、有病率の高さである。しかしながら、ほとんどは 無症状に経過するため、軽視されがちで、高血圧症の真の怖さを、大部分のひとは、知らずにいる。私事だが、お酒を飲みすぎると私は、睡眠中に頭痛がして、目が覚める。ああ、血圧が上昇しているな、と実感するのだが、どちらかというと、低血圧な体質であるが為、であろう。高血圧症な方は、外来でかなり血圧が上昇していても、頭痛を訴える事が少な い。先に記した4300万人の高血圧患者の中で、適切に血圧がコントロールされているのは、 実はわずかに 1200 万人らしい。コントロールが不十分であれば、脳卒中や心筋梗塞の発症 に繋がりやすいのは、言うまでもない。治療による降圧目標値は、75 歳未満で 130/80、 75 歳以上で 140/90 とされている。また、高血圧症の方が守りたい、1 日摂取塩分量は、 なんと 6 グラム未満。該当される方は、1 度量りで、6 グラムの食塩量を確認してみよう。
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●糖尿病

またまた私事で恐縮だが、我が家には糖尿病の黒猫がいる。それで私は毎朝目が覚めると、 腹筋を 10 回こなし、その後その雄猫に、インスリンを打つ、のがルーティンである。憂鬱 な日々が続いているが、針を刺されるクマッチ(名前)は、猶更であろう。で、糖尿病である。ご存じかもしれないが、糖尿病には1型と2型の分類があり、前者は、「体内でインスリンを分泌する唯一の細胞である、膵β細胞が何らかの理由で破壊され、インスリン分 泌が枯渇して発症する糖尿病」と定義される。1 型は、小児科で治療が始まることが多く、 インスリン頻回注射や、インスリンポンプ療法を行う。大半の糖尿病は2型、となるわけだが、「インスリンの分泌低下や、インスリンが体の様々な組織で作用しづらい(これをインスリン抵抗性と呼ぶ)状態が生じ、そこに過食、運動不足、肥満、ストレス、あるいは加齢も加わって2型糖尿病が発症」する。1型であれ2型であれ、糖尿病はインスリンの作用不足による、慢性の血中高血糖状態にあるわけで、その治療は、高血糖状態の是正が基本となる。食事療法、運動療法も大切だが、概ね薬物を頼りにせざるを得ない。すると低血糖状態という、悩ましい問題が生じる。経口血糖降下剤であれ、インスリンであれ、血糖値を下げすぎてしまう有害事象が、高確率で発生する。一般的には冷感、動悸、手の震え等が症状であるが、高齢者の場合、脱力、眩暈、目のかすみを訴えるケースも多く、注意が必要である。意識障害や、せん妄に至る、重症例も散見される。今後、地域における糖尿病に対する多職種連携が、推進される兆しがある。折に触れ、糖尿病への見識を深 めて頂くことを、お願いしたい。
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●脂質異常症

脂質異常症をもって、漸く生活習慣病を一纏め出来そうだ。ところで以前は高脂血症と呼ばれていた病気が、脂質異常症へと改名された。健診を受けていれば、お分かりだろうが、 採血のデータに、T-コレステロール(総コレステロール以下 T-C)、LDL-コレステロール(以 下 LDL-C)、TG(中性脂肪)の3種が、脂質の評価として記されている。10 年くらい前迄は、 LDL-C は表出されず、代わりに HDL-コレステロール(以下 HDL-C )の数値が示されてい て、医師は、T-C・HDL-C・TG の値から、LDL-C を計算していた。現在は、LDL-C の測定法 に信頼性が高まり、無用な計算を免除されている。HDL-C が善玉コレステロール、LDL-C が悪玉コレステロールと、俗に称されている。幾ばくか簡易な説明だが、LDL-C が高値か、 TG が高値な場合に、病的意義があると考えて欲しい。前者が高コレステロール血症、後者 が高 TG 血症である。おさらいになるが、脂質異常症には、高コレステロール血症と高 TG 血症の 2 種類がある、ということになる。そして、2 種を合併している患者さんも多い。身 に覚えのある人も少なからずと思うが、脂質異常症は症状がないので、健診等で指摘されても、医療施設を受診しない人が多々おられる。しかし放置しておけば、動脈硬化が間違いなく進行し、大変な結末を招きかねない。不安を感じた方は、受療行為に踏み切ろう。 身近な方にも、どうか勧奨を。
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●肩関節の疾患

つまり、肩関節の痛みを起こす疾患となるが、思い起こされるのは、江戸時代から用いられている通俗的病名である、五十肩になろう。しかしながら、常に念頭に置くべきは、腱板断裂であり、それを熟知していこう。肩関節は、本来不安定な関節で、それを補うために、関節を包むように腱板が存在する(絵、参照)。腱板は、肩の動きとともに常に伸張、ねじり、圧迫を受けるため、腱の劣化(変性)が起こりやすい。故に腱板断裂の頻度は、 加齢とともに増加し、ある住民検診によると、50、60、70、80 歳代でそれぞれ 13、26、46、50%の有病率であったらしい。誘因としては、過剰な肩の使用となろうが、農業等を されている方には、宿命的と言わざるを得ない、症状は痛みと、上肢の挙上困難である。
痛みは安静時、運動時どちらでも認められるが、特に夜間に苦しまれ、患側(逆を健側という)の肩を下にすると、眠れないらしい。その他、整髪、洗顔、更衣等にも支障が及ぶ。 断裂した腱が、自然につながることはないと考えられていて、70 歳以下の就業者で痛みが 強い、あるいは筋力低下が明らかなら、手術を勧められることが多いようだ。
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●変形性膝関節症

膝関節痛を生じる代表的疾患は、変形性膝関節症[以下、膝関節 OA(osteoarthritis)]で、国内 の患者数は、2000 万人を超えるともいわれている。ただ患者さんの愁訴は、あくまでも「膝 関節周囲の痛み」となる。膝関節 OA は、歩行開始時の疼痛が特徴的で、安静時痛が強い時 は、他の疾患を疑う。また、膝関節 OA の場合、いつから痛みが生じてきたかは、定かでな いことが多い。きっかけが明白で(例えば転倒して、膝頭を叩くとか)、そこから痛みを覚えた際も、他の疾患を考慮する。また特徴的な所見として、下肢に体重をかけた際、膝関節が外側に偏位する(絵)。生活上の指導では、正座やしゃがみ込み、階段昇降は避けるよう、アドバイスしたい。安静にした方が症状はとれやすいが、過度になれば、筋力低下から日常生活のレベルが落ちる危険性も、孕んでくる。「グルコサミンやコンドロイチンの摂 取は、効果的?」とは、膝関節 OA の患者さんからよく聞かれる質問だが、医学的には推奨 されていないと、答えることにしている。
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●急性腹症

正直に吐露するが、私は腹部の病気が、大の苦手である。初診の患者さんが、「先生、お腹が痛くて!」と訴えられると、診察時の緊張感が倍加する。弁明するつもりはないが、腹腔内には、とにかく臓器が多いので、門外漢な私には、どの臓器が痛みの原因であるのか、 当たりをつけるのが難しい。ましてや当院には、CT が無いので、尚心細い。そんな真情な ので、できれば腹部の疾患に、筆を進めるのは憚られる思いだが、急性腹症だけは、申し 伝えておきたい。さて腹痛は、日常診療の場で遭遇することの多い症状の 1 つであるが、 その中には緊急手術等、早急な処置が必要とされる、急性腹症が含まれる。激しい腹痛と、腹膜刺激症状と称される、腹部が固くなる現象が特徴的。私的には、腹部が固い時と、膨満と呼ばれる、腹部の腫脹を診た時に、心のアラームが鳴り響く。急性腹症の原因は、多岐に亘るが、日本人で増加傾向にある大腸がんもその一つである。特に高齢者の大腸がんは、臨床的に進行した状態で診断されるようだ。便通異常(便秘と下痢の繰り返し)、肛門からの出血、貧血などで受診される。高齢者の貧血では、常に大腸がんを疑えと、私も教わってきた。急性腹症は、決して稀な疾患ではないので、皆さんも頭の片隅に、留めおいて欲しい。
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●CKD

この頃頓に耳にする、CKD。chronic kidney disease の略で、訳すと慢性腎臓病。CKD は、 透析や腎移植を必要とする、末期腎不全の予備軍であるため、それに対する取り組みの重要性が、ここ十数年で、活発に議論されている。日本には、現在透析への導入を余儀なく されている方が、31 万人いるらしく、日本国民の 400 人に 1 人という、深刻な状況である。 さらに CKD の患者さんは、日本の成人人口の約 13%を占める、1330 万人に上ると報告さ れている。さて CKD の定義は、意外とシンプルで、@腎障害の存在、A腎機能の中程度以 上の低下、のいずれかが 3 カ月以上持続する、ことと示されている。健診でルーティンと されている、検尿と採血、それで疑いを持つことが可能だ。まず腎障害の存在とは、蛋白尿の存在、または蛋白尿以外の異常、とされている。蛋白尿以外の異常は、ここでは考えないこととする。留意すべきは、検尿における蛋白尿が指摘されること。次いで、腎機能の低下に関して。採血の項目では、尿素窒素とクレアチニンの2つが、以前より腎機能の指標として数値化されてきたが、最近はクレアチニンの値に、年齢・性別を加味し推定す る、eGFR が、腎機能の評価として推奨されている。この eGFR が低下すると、腎機能が低 下していることの、裏付けとなる。ここまでを確認。検尿で蛋白尿が認められる、あるい は採血で eGFR の低下が認められる、そのどちらかが、3カ月以上持続すれば、CKD と判断 する。共に存在することも、当然有り得る。CKD の予防として、生活習慣病としての高血 圧症、糖尿病の治療を厳格にすべしと、注意喚起がなされている点は重要。繰り返しとな るが、CKD が進行すれば、末期腎不全に及び透析を免れないし、心血管障害(心臓・血管 系のトラブル)の発症の誘因ともなることを、お忘れなく。
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●心不全

心不全も、医師意見書によく記されている、見慣れた病名かと思う。これは、急性と慢性に分類されるが、今回は慢性のそれに、スポットを当てたい。慢性心不全は、高血圧症、虚血性心疾患、不整脈、心臓弁膜症、心筋症などを原因として発症する。また、脂質異常症、糖尿病とも関連が強く、高齢になるほど、発症率が高くなる。病態の本質は、心臓のポンプ機能の低下なので、それを反映し、少しの動作で疲労を感じたり、手足が冷えやすくなったり、下肢を中心に浮腫(むくみ)が生じる。重篤化すれば、肺に水が溜まる、肺水腫を合併し、多量の痰を伴う、呼吸困難に至る。慢性心不全は、各種心疾患の最終段階で、一旦心不全に至ると、日常生活の質が低下し、入退院を繰り返して、その後の経過は不良である。超高齢社会を迎え、罹患する患者数は増えているが、生活習慣病や心疾患を 的確にコントロールすることで、重症化を防がねばならない
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●慢性閉塞性肺疾


慢性閉塞性肺疾患は、COPD と記されることが屡々で、Chronic Obstructive Pulmonary Disease の略で、この先は、COPD で話を進める。以前は「肺気腫」、「慢性気管支炎」に分 けられていた疾患が、括られて COPD と呼ばれるようになった。その名残からか、COPD は、肺気腫型と気管支炎型に分類されていて、日本の COPD 患者さんの殆どは、肺気腫型 らしい。では COPD とはどのような病態か?それを理解するために、呼吸時の空気の流れ を知らねばなるまい。鼻や口から吸いこまれた空気は、気管を通って肺へと送られるが、気管はいくつも枝分かれし細くなり、ここを細気管支というが、最後は肺胞と呼ばれる、ブドウの房に似た袋へと至る。その肺胞が膨らんだり、しぼんだりすることで、呼吸はな されている。COPD の患者さんでは、肺胞と細気管支が炎症を起こし、咳や痰、また運動 時の息切れを引き起こすのだが、COPD の病状を端的に言い表せば、息を吐きだすことが困 難になる疾患、と想起しよう。健常な人には、ちょっと想像しづらいだろうが。治療の一環でもあるが、患者さんには、腹式呼吸を行い、口をすぼめて息を吐くよう勧めている。 呼吸苦が軽減するようだ。喫煙が原因の 90%以上とされていて、受動喫煙(他人の喫煙の 煙に曝される)もリスクとなる。粉塵・科学物質・大気汚染物質の吸入も発症要因で、中 国の PM2,5 も危険。我が国における患者数は、530 万人に及ぶと推計されているが、治療 を受けている方は、20 万人にとどまっている。放置すれば、肺がんを引き起こす可能性も あり、早期の発見が望まれる。
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ACP におけるケアマネの立場

キーワード:ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
        AD(アドバンス・ディレクション)
        LW(リビング・ウィル)

ACP を理解するには、その前身とも呼べる、AD を解釈する必要がある。AD とは、「ある 患者あるいは健常人が、将来、自らが判断能力を失った際に、自分に行われる医療行為に 対する意向を、前もって意思表示すること」と定義されている。AD には、代理人指示と、 内容的指示と呼ばれる、二つの要素がある。代理人指示とは、事前指示を行う者が、意思を表示できなくなった時、決定を行う代理人を指名しておく、事前指示である。対して内 容的指示とは、治療についての患者の望みを記録した事前指示で、LW は、内容的指示の一 つで、書面により残された指示を示す。LW は、生前意思と訳されていて、人生の最終段階 を迎えた時の、医療の選択について、事前に意思表示しておく文書となる。LW と、代理人 が決定されると、AD が構成されたこととなる。残念ながら、日本では、文化的背景も理由で、AD が定着していない。殊に欧米では、医療倫理の基盤が、自律尊重原則にあり、日本 人の国民性とは趣を異とする。ちなみに日本では、無危害原則の志向が強い。興味のある 方は、“医療倫理の 4 原則”を検索頂きたい。さて AD のみで、その本人の望む最後を迎え られるかといえば、多くの事例の研究から、必ずしも有効でなかったとされた。そこで AD を発展させ、ACP の導入となる。ACP は、患者−代理人−医療従事者等の三者が、患者の 意向や、大切な事項をあらかじめ話し合うプロセスを、尊重することとされ、患者の価値観を理解・共有することで、現実に起こり得る複雑な状況に、対応が可能なモデルとされ ている。厚労省が、平成 30 年に改訂した「人生の最終段階における医療の決定プロセスに 関するガイドライン」において、地域包括ケアシステムの構築が進められていることを前 提として、諸外国で普及しつつある ACP の概念を盛り込み、医療・介護の現場における取 組を図るという考え方を根幹とし、3つの観点を、明言化している。
@ 本人の意思は変化しうるもので、医療・ケアの方針について、話し合いは、繰り返すこ とが重要
A 本人が、自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合、本人 の意思を推定しうる者となる、家族等の信頼できる者も含め、事前に繰り返し話し合っ ておくことが重要
B 病院だけでなく、介護施設・在宅現場も想定する この先日本でも、ACP に関する検証等が、分析されていくであろうが、まずはこのガイド ラインに準じて、実践を重ねるのが肝要と思われる。
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