―――Kiss Kiss Kiss―――



「レーン」

珍しく早く仕事が終わり、今日くらいはシオンに優しくしてやろうと、
自らキッチンに立ち、包丁を握る夕暮れ時。
ほぼ予想と同じ時間に玄関から声が聞こえ、パタパタと、
小さな足音が次第に大きくなっていく。
カチャ・・・とリビングのドアが開き、『珍しい・・・』というシオンの声が、
続けて聞こえた。

「なんでこんなに帰りが早いの?」

「仕事にキリがついたから、たまには・・・と思って帰ってきた」

「へぇ・・・」

そっけない口ぶりの彼女は、それでもきっと嬉しいんだろう。

ソファの上にいそいそとバッグを置く
――放り投げると、僕が怒るのを知っているから――と、
僕の体に後ろからぎゅっと腕を回し、背中にぴったりと自分の体を密着させる。

「今日のゴハンは何?」

「シーザーサラダと、ミネストローネと、クリスピーチキン。あと焼いたパン」

「焼いたパンか・・・」

シオンはそこを何度も繰り返し、そして笑った。
今日は彼女の好物ばかり。
『焼いたパン』というのは、シオンが好んで使う言い回しだ。
トーストではなく、あくまでも焼いたパン。
トースターなどというものは使わず、本物のオーブンで頃合を見ながら焦げ目をつける
フランスパンを『トースト』と呼ぶのは、どうしても許せない・・・といつも言う。
安っぽい気がして、フランスパンが可哀想だ・・・と。

「いい匂いだね・・・」

コトコトと音を立てる鍋からは、ほんのりとトマトの香りが漂っていて、
腹を空かせたシオンでなくとも、食欲をそそられてしまう。
今日はベース作りから自分で行ったから、どの料理もきっと美味しいはず。
トマトを湯剥きし、種を綺麗に取り、ミキサーで潰し、そして様々なスパイスを
調節しながらゆっくり煮込んだミネストローネ。
もちろん、野菜やベーコンも忘れずに。

「ズッキーニ、入ってる?」

「うん」

「チキンもパリパリ?」

「そのはず」

「じゃあ、キスしようよ」

レタスを千切る手を止め、肩越しにシオンを振り返る。

「料理の途中だから、だめ」

「でもしよう」

体に絡ませていた腕を解き、僕の隣に立つ。
小さな声で大好き・・・と呟くと、少し背伸びをして、僕の唇についばむようなキスをした。

「今のが10万回目のキス」

ウソだけど・・・と言いながら、らしくなく頬を染めて、恥ずかしそうに笑った。
その表情があまりにも可愛かったから、らしくなく、どうしようもないほどに
甘い気分になってしまって。
少し身をかがめて、シオンの額に軽くキス、頬にキス、そして、唇にキス。

「じゃあ、お返しで10万3回のキス」

もちろん、ウソだけど・・・と言葉を返す。

「・・・テーブルの準備、するね」

よろしく、と、そそくさとその場を離れるシオンの後ろ姿を、
幸せな気持ちで満たされながら見つめる。
彼女が10万回目のキス、と言ったのは、きっとそれほど長く僕と一緒にいたいから。
そう、自惚れてもいいだろうか。
そして僕が10万3回のキスと言ったのは、それほど長く彼女と一緒にいたいから。
そう、願ってもいいだろうか。
ランチョンマットの敷かれたダイニングテーブル。
湯気を立てるミネストローネと、ぱちぱちと音を立てるクリスピーチキン。
瑞々しいレタスに、香ばしい香りのフランスパン。
今日くらいは・・・と、ひそかに忍ばせておいたシャンパンを開ける。

2人だけの幸せな晩餐。
食べ終わったら、10万4回目のキスを交わそう。





end

           

Nonsense100000カウント記念のフリー配布話です。
レンとシオン。Nonsenseのお話の中で一番好きな話です。

は〜とのぽけっとバージョンだとこんな感じのふたりになるかな。
・・・誰?!ふたりともどっかで見た顔!って言ったのは!!
だから〜〜は〜とのぽけっとバージョンなのです(笑)


ウチのサイトで飾るってこと考えてあえてピンク系で描いてみました。
Nonsenseで読むのであれば・・・アイスブルーって感じかな。

これからもポンちゃんらしさがいっぱいのふたりを書いていって欲しいな♪



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