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民具カードを活かすフィールドワーク

井上賢一著「民具カードを活かすフィールドワーク」(『鹿児島民具』第27号 - 頴娃特集号(コラム記事)、2015年、鹿児島民具学会、54-55頁所収)

※本稿は、鹿児島民具学会「頴娃地区共同調査」の調査団編成に際し、定例研究会で私の民具カード活用法を紹介した口頭発表要旨です。


1 はじめに

民具カードは、民具の調査又は整理に際し、名称・調査地・製作法・使用法・特徴・形態等の情報を簡潔に記載するものです。調査カードと収蔵カードの二種類があります。頴娃調査を前に、私のカード利用法を、紹介させていただきます。

民具調査カード

2 民具共同調査の目的

鹿児島民具学会の共同調査は、『民具調査ハンドブック』の共同調査定義同様「一定地域内の民具の総体を有機的にとらえようとする民具誌」づくりを通して、「地域の暮らしの全体像を把握する」ことを目指していると言えます。調査員全員がこの目的を共有し、分担して、事前に各々が調査項目を設定しておく必要があります。

3 私のフィールドワーク

私の民具調査の流れ

@ムラ歩き・伝承者探し→A聞き書き始め(文献調査・ムラ歩きを受けて、誰でもご存知の内容を聞く)→B個別民具実測調査(ここで民具カードを活用)→C次の伝承者の紹介を受け、辞去する。

個別民具調査の方法

@民具出し(調査項目に従い、納屋から民具を広いところに出す)→A全体撮影→B実測用民具カード1分間スケッチ→C採寸・形態記録→D聞き書き(名称・製作法・使用法・特徴由来など)→E部分撮影(聞き書きを受けて、細部を撮影 ― 製作所焼印や裏側など)→F民具戻し。

民具カードの清書法

帰宅して、まだ記憶が鮮明なうちにカードを清書します。@写真プリント→A清書用の白紙のカードに写真を置く→B写真上で長さを図り、図のバランスを取る→C実測カードと写真から鉛筆で下書き→Dボールペン清書(フリーハンドで立体感・質感を出す)→E実測カードから実測データを転記(寸法・形態)→F実測カードから調査情報転記(聞き書き)→G鉛筆の下書きを消す→H写真を張り、作成者のサインを入れて完成。

調査報告の書き方

カードが完成したら分類・整理し、不足は補充調査します。本文はカードから原稿に転記、図はカードをそのまま入稿。そうすることで考察に時間をさけます。調査報告の場合は、郷土誌等の文献やインターネット資料に過度に頼ることなく、自ら調査した内容に自信をもって、まずは調査データから考察する姿勢が大切だと思います。

3 民具カードの活かし方

図の描き方

実測図には第三角法を用いて精密に描く方法もあります。しかし宮本常一も『民具学の提唱』で指摘するように民具のイメージがつかめ、短時間で描ける方法として、私はスケッチを用いています。

調査でのカードの意義

@必須項目を網羅しているため、ノートより調査がスムーズで、聞き書きに時間をさける。A宿舎でも分類・整理ができ、日々の反省が容易(ノートは並べ替えられない)

報告でのカードの意義

@記事を入力し、図を提出すれば本文完成 A分類・整理し、カード式思考法で考察・まとめができる。

――以上を参考に、よい調査になることを期待します。

(2014・9・6鹿児島民具学会例会口頭発表)

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