大崎町菱田天園の稲作(ひしだ・てんそん)。農耕儀礼 |鹿児島の民俗 - 薩摩民俗HOME

大崎町菱田天園の稲作

―大隅半島大崎町の農耕儀礼抄―

地図●鹿児島県大崎町●調査日 1995.7.29
●調査地 鹿児島県大隅半島大崎町大字菱田天園集落(おおさき・ひしだ・てんそん)
●伝承者 大正2.3.15生まれ男性と大正11.4.1生まれ女性夫妻。
●初出 『大崎町民具・民俗調査報告書』 1996 鹿児島県大崎町教育委員会・鹿児島民具学会 ・97-99頁に所収(原題同じ)。鹿児島民具掲載文を一部読みやすく補訂した。


●はじめに

 町西部の菱田地区天園集落(おおさきちょう ひしだ てんそん)で稲作及びそれに伴う儀礼の聞き取り調査を行った。菱田原(ひしだばる)の台地は耕地整理がすすみ,広区画の畑作地,牧草地が広がっている。台地の一段下に集落,さらにその下には菱田川に沿って水田がある。

 では,農耕暦にしたがって,報告に入る。時代は太平洋戦争前後の牛耕時代に限定した。

●畦作り(あぜづくり)

 2月には畦を作っておく。

●種漬け(たねつけ)

 3月中頃,30度ぐらいのお湯に2晩か3晩漬けて芽を出させる。1反当たり約7升分を作った。

●苗代・種まき(なえしろ・たねまき)

 苗代は水のかかりやすいところに作る。苗代に種を播き,モミガラを焼いたクレタンというのをかける。さらにロウを縫った紙をかぶせて霜よけにした。約1か月で10センチメートルぐらいにまで成長する。

●田起こし・代かき(たおこし・しろかき)

菱田の牛神 田起こしはシキ(鋤―すき)を牛に引かせて行った。シキは志布志(大隅半島しぶし町)や大崎の農具屋から購入するが,農具屋のことをモッコと呼んでいた。シキは外側から左巻きに渦巻き状に入れていく。シキが届かない畦の脇は鍬で耕す。その後,農協から購入した骨粉(こっぷん肥料)や油粕,ヨウリンという化学肥料などを撒く。そして乾かして,もう一度すく。牛には角の後ろからひもをかけて,オモテという制御具をつける。さらにそのひもをハナグイにつなぎ,手綱をつける。手綱は一本。左に回るときは「ヒダッ,ヒダッ」というかけ声とともに手綱をピタッ,ピタッと叩く。右に回るときは「コーコー」と声をかけながら,手綱をぐっと引っ張る。とまる時は「オーオー」と言った。集落で牛の神様を祭っている。3月15日がお祭りで,青年が棒踊りを踊る。

 代かきは,2度目の乾燥が終わったころ田に水を入れて,モガ(馬鍬―まぐわ)を使って行う。これをヨムという。ヨミ方はシキを同じ。モガも2度ヨム。田起こし,代かきは男の仕事だった。

●田植え(たうえ)

 4月の中頃,田植えを行う。苗を取るのは年寄りの役目で,若い人が植える。ほんの昔は田植え綱も使っていたが,昭和20年ごろは,シカツダケという細い竹に約20センチメートル間隔で印をつけ,それにあわせて植えていった。

 田植えの前に集落会長さんの指揮で田植えの順番を決めておき,その順に水を入れていく。田植えは集落総出で行った。当時,40世帯ぐらいあった。

 田植えが終わると,集落の集会場に田植えをした人が寄って,サノボイという慰労会をしていた。

●管理(かんり)

 除草は手で取るか,タグルマを用いた。約20日間隔で3回程度行う。

 防虫は,底に穴を開けた50センチメートルくらいの竹筒に豊年油という油を入れ,朝早くその油を落として行く。田植えの1か月後から,2,3回撒いていた。

 水は毎日朝方でかけ,調節する。

●収穫・保存と農耕儀礼(しゅうかく・ほぞん のうこうぎれい)

畜産安全祈願 10月から11月にかけて鎌で収穫する。当時脱穀には足ふみ脱穀機を用いた。自分が小さかったころはセンバを用いていた。稲は自分で使う分しか作らなかった。昭和40年ぐらいまでは米検査員という人が来て,荷車に米を積んで,牛に引かせて持っていった。運送専門に馬の荷車を持っていた人もいる。

 米は乾燥させて,カマゲ(叺―かます)に入れ,天井に吊り下げて保存した。粟やソマ(蕎麦)もそうしておいた。

 収穫が終わるとタノカンサア(田の神様)のお祭り(ゴシアゲ)があった。50センチメートルぐらいの石のタノカンサアが集落を回っていたが,今はどこで止まっているのか分からない。また,初亥の日には餅をついて,床の神様にお供えする。そして,縁のない人が夫婦になるようにと言って,その餅を二つずつ与えた。親が子供の数だけついた。

 正月前の12月29日には,餅を搗いて,牛小屋で鍬などの農具を一ところに集め,ダイダイの葉に餅をのせてお祭りしていた。1年の仕事納めの意味だったと思う。正月の仕事始めやナリキゼメというのはしなかった。

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