テスト1日目が終わりその日の午後
家に帰って着替えをする。
食事は集まった後にするのか、どうにも時間がない
親にばれると外に出られるかどうか怪しいから
着替えたら素早く静かに外に出て行った。
駅のロッカーに着替えでも用意していれば
こんな事しなくてもよかったと後悔したが
それもこうやって無事に家を出られれば問題ない
駅へと歩く、途中に自分と同じ学校の学生を見た、おそらく1年
茶髪で身長は高め、メガネをかけて目つきが悪い
わざわざ電車を利用してあの学校に来る奴も珍しい。
それでも稀に見ることもあるから、気になるというほどの物ではないし
自分もその一人であるのだから、そのことはすぐに記憶の底に沈んだ。
駅を2つはさんで3つ目・・・ようやく着いた
この猛暑の中2往復するというのもさすがにしんどい。
改札口には既に4人が待機している
茜、黒沢、身長の高いのが確か山吹で、黒沢くらいの身長の奴が緑川だ。
何とか判別できた、それより一人足りない
「押忍ッ、月島が来るなんて正直信じられなかったよ。」
黒沢が空手家の如く挨拶をする。
・・・マリアは何処だ?
周りを見てもマリアはいない、隠れて脅かそうとしているのでは無いかと思ったが
そういう事でもないらしい。
「全くあのバカマリアは・・・・!」
黒沢は頭を押さえてそう言った。
アイツが言い出した事なのに遅刻とはばかげている。
このまま来なかったら無視してどこかに行こう、
などと緑川と黒沢が話をしている時
ようやく、マリアが現れた。
反省の色がないのか、普通に歩いてくる
「走れよアンタはさぁ〜ッ!?」
黒沢が怒鳴ると、2,3歩だけ足を速めた
「ごめん遅れた、みんな集まってどのくらい?」
茜が時計を見た。
「彩が来てから3分かな・・・。」
そういうと、マリアの悪びれた表情が元に戻った
「3分・・・じゃあギリギリ間に合ったという事で。」
まるで間にあってない・・・
他の4人もあきれ返ってマリアを見ていた。
6人が無事集まった事で、いよいよ次、何処に向かうか検討する
相変わらず誰も何も決めてない。
基本的に全員とある程度以上の付き合いがあるのは黒沢ただ一人で
自動的に6人を仕切っているのだが
この面子、自分が言うのもなんだがとてもまとまりが悪い。
茜に限っては山吹ばかり見て他は数にも入れてないだろう。
話し合っても全く方向性が定まらないようだ
「まずは食事からがいいと思うんだけど、妥当なのはファミレスだけど・・・。」
と緑川、誰も食事はとってきていない
「よし、じゃあ近くに美味いカツ丼専門店があるからそこだ!」
「お、わたしもそこでいい。」
黒沢の提案とそれに同意するマリア
カツ丼専門店って、もう少しおしとやかなメニューは・・・
そんな濃いもの食べたら吐くかもしれないし、避けて欲しい。
「あそこ個人営業だから6人はつらいと思う・・・明らかに嫌そうな顔してるのが二人いるし。」
サブリーダーの緑川がそれを制す、ちなみに嫌な顔をしているのは私と茜だ
茜が更に反論する
「カツ丼なら学食でもあると思うんだけど・・・。」
「渡辺・・・お前知らないのか!?、学食のカツ丼と言えば
肉の厚みが2,3mmしかないんだよ!?ケチくせ〜。」
ケチくせ〜・・・のは誰か知らないが意地でもカツ丼が食べたいらしい。
「渡辺さんは何処がいいと思う?、俺はあまり知らないんだ。」
初めて山吹と言う奴が口を開いた
黒沢やマリアに聞かないのはもはや当てにしていないからだろう
この中では茜が最も普通の存在に見える
しかしそんな茜はまさか急に話しかけられるとは思わず
時が止まったように硬直した。
今この場においては、茜も普通とは遠い。
「あ、あう・・・え・・・・っとその・・・・あ〜う〜・・・・。」
思考力も完全停止寸前だ。
「あ〜、えと、ぱ、パスタとか・・・?」
ギリギリ最後に残った思考力をフル動員させ
何とか言葉を紡ぎ出した
「やれやれ上品ぶって・・・。」
すかさずマリアが茶化す
「この辺でイタリアンは・・・マルユーデパートの最上階(レストランフロア)にあったはず。」
そして緑川がそれを流して詳細を説明する
「じゃあそこにしよう、余り悩んでもしょうがない。」
「よし、じゃあさっさと行くぞ!腹減った〜。」
山吹が決定して、黒沢が仕切る
見事な流れが出来上がっていた。
バラバラそうで意外とバランスの取れている面子なのではないだろうか
私はそんな5人の後ろをついていく。
今の流れの中に自分は入っていないことに些かの不安を覚えつつ・・・
マルユーデパートの6F、レストランフロアの南東側
ベラステッレ・・・イタリア語で美しい星々と言うとか言う店。
私は隅に座り、まずはそこから見える景色を眺めた
平日のこの昼時では人も疎らで、街は車の通りも少ない
さほど大きくはないこの町は、駅に離れるにしたがって緑の量が増え
その緑の先には海が広がって水平線を作っている。
こうやって町全体を見下しているだけで、心が安らぐ
ふと茜が、私にメニュー表を渡す、外を眺めるのは注文の後にまわす。
あまり見慣れないパスタの種類がずらっと並んでいる
レディースセットなら、その日のオススメパスタと他色々ついて面倒がないと判断する
しかしレディースセット・・・何故男は注文できないのか。
女である私に不都合などないが何故なのだろうと時折考える
食べ放題で値段が違うのは理解できても
これは量は一緒、なぜなのだろうか。
疑問はさておき、値段が安い上、パン、パスタ、サラダ、飲み物がセット
つまり注文が長引かず一言で済むのだ、私にとってはそれも重要な要素といえた
黒沢とマリアは更にピザとグラタンを追加注文する、あいつらの胃はおかしい。
茜は飲み物が違う以外私と殆ど同じ内容を注文した。
一通り注文が終わると皆各自料理が届くまでまったりと待つ
「そ、それにしても何で緑川さん達が?」
茜が緑川に質問する
さすがに山吹に直接質問する勇気はなかった
「あぁ〜、最初はマリアさんに誘われて断ったんだけどね、男一人はアレだし。」
私の立場だったら断固反対するだろうな・・・
男4人に私一人・・・想像するだけで恐ろしい・・・。
「で、そう断ったら山吹がじゃあ俺も来るからお前もきさらせ〜って感じでさぁ。」
「来さらせ!?、山吹君が!?」
茜が過剰反応した。
「そういう風には言ってないぞ・・・?、来さらせ?」
山吹が苦笑いする、どう考えてもそんなこと言いそうにない人間だ
「もう二人とも、これはニュアンスだってば、一言一句いちいち覚えてないって。」
「で、ですよね〜。」
「そんなことより僕の方から聞きたいよ
山吹にしても渡辺さんにしても、君等優等生が何〜んでわざわざ?」
その質問に二人は喉を詰まらせる、別に話をしていた、マリアと黒沢も
何処で聞いていたのか口を止め耳を澄まし、急に静かになった
茜の理由はもはや明白、だがまさか本人の前で言うわけには行くまい
適当な理由を探すため頭を下げて、指で空に何かを書いている
一方の山吹は、その辺の質問は用意してきたのか
すぐに気持ちを落ち着かせ息をつく。
「別に四六時中勉強なんてしないだろ?、むしろたまには息抜きした方がいい。」
さすがエリート様の言う事だ、合理的でツッコミどころを極力押さえた
いわゆる極普通の理由を持ってきてくれる
「わ、わわ、私もそうなんですよ〜。」
そして茜は・・・嘘がバレバレだ
もう少し動揺を抑える事はできないのだろうか・・・
「も少し二人ともリアリティのある嘘をついて欲しいな。」
ホラうるさい奴(マリア)が噛み付いてきた・・・
「じゃ、じゃあ蒼野さんはなんて言えば納得してくれるんですか。」
・・・・茜のその返し言葉は最悪だ・・・・
かなりまずい予感がする、マリアは悪魔の笑みを浮かべた
「そりゃ、山吹君がいるからついてきました、とか。」
やっぱり言った、予想通りいった
NGワードだと本人も知っているのに言い切った
茜は顔が引きつっている。
「マリアさんはそうやってそんな勝手な空想するんだから・・・。」
茜が取り乱す前に緑川が素早くフォローした
「だって面白くてつい・・・いっ、いたっ、痛い〜〜。」
黒沢はマリアの頬を強くつねった、たまには痛い目に遭わないと助長する。
「デリカシーが無いよなお前はさぁ〜まぁお前にそういうの元々なさそうだけどな?」
「うんうん、遅刻の事といい、勝手だよね。」
「う〜〜・・・。」
二人に責められ頬を膨らますマリア、反省しないで怒る辺りが
さすが性格が悪い、悪魔の笑顔のマリアといった所か。
そうやって反省しないため二人から更に叱咤される
茜は上手くやり過ごせてほっとしている一方
マリアへの好感度は激減した事だろう
そんな周りの事は放っておいて、また外を眺める
あまりに久しぶりに勉強と言うものをしたツケか、なんだか眠い
気がつけば机の上の組んだ腕に頭が落ちている。
日差しも直接射さないし、クーラーも適温で心地いい
「彩・・・寝ちゃ駄目だよ。料理来るって。」
茜が声をかけるがどこか遠く聞こえる
むしろさっきのショックはもう脱したのかが気になる
茜のわかりやすさは尋常では無いから
きっと大丈夫なんだろう
今はマリアの方が怒られてすっかり拗ねている
少し前に大人だと思ったがそれは訂正しよう。
食事も終わって、店を出る
「これからどうする?このデパートに特に用は無いけど。」
とマリア。
「じゃあ、別な所に行く?」
緑川が意見を聞く、個人的にあまり移動はしたくないのだが
かといって会話などもする気も無い。
今このレストランフロアの上の階、屋上とゲームセンターのフロアは
人が殆どいない、ゆっくり会話を楽しむと言う意味では
最高の条件が揃っている、だからこそそれに気がついて欲しくなかった私は始めて
他に先んじてエレベーターで下の階に移動しようと試みた。
エレベーターでは屋上にいけず、階段を使う必要がある。
乗った後でまた上に行こうとは考えないはずだ
そんな思惑を破るようにマリアが
エレベーターが6階に向ってくる間隙をついて
今思い出したかのように喋る
「あ、ちょッ、ちょっと待ったサヤ・・・
お腹休みしたいし、上の屋上でちょっと休もう。」
マリアが屋上の存在に気がついてしまった
誰も同意していないのに勝手に屋上の階段に向かう
さっき勝手な行動で怒られたことを全く反省していない
「あ、そうですね、今あんまり動きたくないし。」
「確か旧いけどいくつかゲームがあったはず。」
茜と緑川が続く、エレベーターは4階まできているのに・・・
「よし、あんまり最近行かないから知らねーけど、ゲームがあったら勝負しよう秀一(緑川)!」
黒沢も屋上に向う、エレベーターは5階のランプがついている。
さすがにもう諦める他ないか・・・。
「月島さん、他に行きたい所があったら・・・俺が言おうか?」
残った山吹が気を利かせて聞いて来る
しかし身長高いな・・・目の前にいると更に大きく感じる
体躯もいいし、私の体重の倍以上あるって黒沢が言うのも納得できる
えもいわれぬ威圧感に思わず一歩後ずさる
この階にはいないのがわかっているのに目は茜やマリアを探す
エレベーターは6階に到着した。
そこから2人の女子がでてきた
緊張が解ける。
女子二人は瞬きを繰り返して私と山吹を見た
「え、山吹君!?なんで月島さんなんかと・・・。」
「奇遇だね・・・・
でもその言い方はないんじゃないか。」
どうやら、ウチの学校の生徒らしい
暇をもてあましマリア達と同じような事を考えてここまで来たんだろう
二人の女子がこっちを睨みつける
「月島なんか」とは余計だが、それに噛み付く山吹はもっと余計だ
私はこの空気にこれ以上構ってやるのは面倒と
視線をかわして屋上へ上がって行った。
取り残された山吹は女子二人をチラッと見た後で踵を返す
「それじゃまた。」
「えっ!?、ちょっと・・・山吹君!?」
山吹は女子二人を振り払う形で、私の後ろに続いた。
女子二人は宇宙人に遭遇したように硬直している
「なんで・・・・?」
「さぁ・・・?」
エレベーターはしばらく彼女らと同じく口を開けて沈黙を守っていたが。
私達の代わりに、別な客を乗せて、静かに下の階に降りていった。