茜の母に送られ駅に着いた。

 土曜日の19時。

「なんて言われるかな・・・」

 問題を起こしてからまだ家に帰っていない

 重い足取りで電車に乗り帰路に着く

 自宅の玄関でいつも通りため息と、目を閉じて何かを祈ってから

 インターフォンを押した。

「はい?どなたでしょうか?」

 受話器に対応したのは姉の綾。

「あ・・・・私・・・・なんだけど。」

 弱々しい声が証明と見たか、綾はすぐに玄関のドアのロックを外した

 鍵が外れる音を聞き、彩は玄関のドアを恐る恐る開ける

 玄関口の廊下には冷ややかに彩を見下す姉が立っていた。

「あ・・・その・・・昨日は茜・・・いや、渡辺の家に・・。」

 彩が事情を説明しようとするが

 綾は興味のない顔を見せ

「お母さんがそこで待ってるから、そっちに話して。」

 もはや会話すら億劫だと言わんばかりに

 そっけなく自分の部屋に戻っていった。

 しばらく、玄関で立ち尽くす彩

 和室の襖の向こうで母親が静かに待っている

 すぐにでも茜の家にでも逃げ込みたい気持ちになりながら

 今までにないくらいの叱咤を受ける事を覚悟して

 靴を脱ぎ、部屋の前に立つ。

「入りなさい。」

 足音で察したのか、母親がドアの向こうから催促する

 彩はその声だけで体が硬直した、忘れていた体の痛みも手伝って

 足が張り付いたように動かなくなってしまっていた。

「何をしてるの!?、早く入りなさい!!」

 ビクッ!、と体を強張らせ

 震える手で襖を開け、視界に母親の姿が映る。

 憤怒の形相をしていると予想したが

 こちらを睨んでいる目は、もはや諦めが見えた

 冷めた視線だった、彩は目をあわさず近寄り

 その視線の中テーブルを隔ててゆっくり座る。

 母親はテーブルに手を置いた

「昨日の事、担任の先生から聞いたのだけど、本当?」

「あ、ああ・・・。」

 彩は息をするにも難しい空気の重さから、振り絞る様に言葉を作る。

「退学したら・・・あなたどうする気。」

「それは・・・どうしろったって・・・。」

「まったく・・・家の恥ね、そうなったら家を出て行ってもらいます。」

 それだけ言うと母親は立ち上がって居間に向かった

 殴る事も、叱りもしない、ただ突き放すだけの言葉に

 彩は深い悲しみを覚えた

 殴られた方がどれほど気が楽か

 思わず母を引き止めるように手を伸ばす

「お、お母さん・・・それだけ・・・?。」

「あなたの母になった覚えは無いわ、
 月曜は一緒に学校にくる事になってるから、言い訳はそのときに話して。」

「・・・・・・・・。」

 伸ばした手が力を失い、畳に落ちる

「くそっ・・・話するのも嫌なのかよ・・・っ。」



 足取りも暗く重く自分の部屋、倉庫部屋に戻る

 今まで不満を態度や八つ当たりで紛らわせていた事を謝ろう、

 勉強もトップなどとは言えないが

 人並みにやって行こうと、決意して家に戻ってきたのに

 結果はこの通り、喋る事もなく家族から疎遠にされた。

 心に黒い靄がかかった様、彩は近くにあった物に目をつけ

 叩いたり破ったり、八つ当たりをして気を晴らそうとしたが。

 昔と変わらない自分に気づき

 余計に暗い気持ちにさせるだけだった。





 ―――――――

 月曜日、学校の教室では

 マリアと黒沢が窓の外を眺めていた。

「今日、サヤ来てた?」

「親と来てたよ、渡辺の方も。」

 校長室か生徒指導室だかで話をしているのだろう。

 マリアは多少の不安を隠さずにはいられなかった。

「なぁ・・・退学になったりしないよな。」

 黒沢はやや軽く見てるのか、それに肩で笑って返す

「はっ、まさか、被害者が大丈夫言ってるんだから、大丈夫だって。」

 マリアの肩を叩き、落ち着かせようとする

 煮え切らないマリアは足をゆすりながら、机に寝そべった。

 小雨が静かに降る風景をまどろみの中で見つめながら数十分。

 教室の扉が開く音がして、茜が疲れた顔で入ってきた。

 早速結果を聞こうと周りの生徒が集まる

 マリアも茜の元に行こうと思ったが

 人にもまれるのは好きでは無いので後で聞くことにした

「で?どうなったの?」

 茜の友達が聞いた。

 茜はみんなの期待を裏切るように軽い口調で

「ん?、2週間の自宅謹慎だって。」

 それを聞いて一斉に不満を露にするクラス「たったそれだけ?」と

 何度も質問するが、茜はそれに頷くだけだった。

「めいっぱい先生二人と親に怒られてたから、何かちょっとかわいそうになってきて・・・あはは。」

 と、茜は照れ笑いをしながら状況を話した

「かわいそうって・・・・あんな奴一回再起不能になるまでさぁ・・・。」

 生徒の一人が呆れ顔で話す

 他の生徒は土曜日に泊まった上に一緒に寝てた、と言う事は知る由もない

 退学が妥当だと誰もが思っていた。

 茜自身もその事がなければ、凄い剣幕で先生や彩の母に混ざって怒っていただろう。

 自分でも心境の変化に驚いている位に、今は怨みと言うものが消えていた。

「再起不能って、私そこまでは・・・。」

 正確には既にそうなりかけたから今更、である

「反省してたし、大丈夫だよ。」

 あっけらかん、と答える茜に気落ちして生徒は各自自分の席に戻っていく

 そんな周囲と相反して

 元気な顔になっているマリアと黒沢が入れ替わるように近づいて聞いてきた

「渡辺さん、サヤは?。」

「2週間の謹慎処分、もう帰ったよ。」

「2週間か・・・長いな。」

「月島は本当に来るかわかんねーし心配だよ。」

 周囲と逆のコメントに茜はくすっと笑った。

「これでも、処分を軽くするように、頭下げたんですよ〜?」

 マリアは指を額に押し当てて思考中の格好をした

「うん、まぁ・・・やった事考えると軽いよね、かなり。」

「退学じゃないだけマシか。」

「そんなことより彩の母親の方が私はムッときました・・・。」

 茜は口を尖らせ不満を口にした。

「なにか問題があるのか?、月島の母さんは?」

「私の場合この前ケンカで怪我したけど、母さんに怒られたというか泣かれてさ
 土下座して謝ったよ・・・あの時はこっちが泣きそうだった。」

 マリアは自分の体験談を話した

 あまり表情が動かない為リアリティに欠けるが、本当だったら土下座は似合わないな、と

 想像しつつ、茜は手を横に振った

「違うんです、もう怒ると言うよりはまるで他人を扱うような・・・
 気に障るようだったら捨てる、ってそんな感じだった。」

「そりゃひっどいね、月島の家庭って仲悪いの?」

「悪いと思う・・・かなり
 自宅謹慎中に外に出歩かなければいいんですけどね。」

 謹慎中に外にいたら今度こそ反省なしと見て退学になってしまうだろう

 あの真っ白な外見は嫌でも視界に入る、顔も童顔で誰しもが学生と見る

 昼間に外出すればすぐにばれてしまうだろう。

「ま、さすがに事情が悪くても部屋から出なきゃ親とも喋らなくていいわけで
 それはサヤだってわかってるはず、2週間引きこもり生活だよ。」

 マリアがそう言うと、他の二人も頷いて授業の準備に取り掛かった。





 自宅に帰ってきた彩は母親の顔を見ることもなく、倉庫部屋に戻った

「彩、2週間の間、家から出すわけにはいきません。」

 いかにも、信用ならないという口ぶりに反感を買った彩は

 感情的に答えた

「誰が出るかよ・・・!、アンタの顔も見たくない。」

 そう言うが早いか、母親は倉庫部屋の鍵を閉めた

 倉庫は外側からのみしか鍵を開け閉め事が出来ない

 自室に閉じ込められる形になった彩はさすがにパニックに陥った

「ちょっ・・・どういう事だよ!?、開けろよッ!!」

 ドアを強く叩いて叫ぶ彩に

 母親は意に返さず言い放つ。

「今まで勝手気侭にやっていた反省をしなさい、トイレと食事とお風呂の時は出してあげる。」

「ふざけるな、おい待て!
 待って・・・待ってよ・・・・。」

 さすがにここで2週間は気が滅入る

 湿気の多い時期は虫も多い、様々な不安が

 ドアを叩く手を強める

「待てって言ってるだろ!、返事ぐらいしないのかよ!?」

「煩いわね、その汚い口も直さないと食事も抜くわよ。」

「頼むから鍵は・・・。」

「たまには良い薬になるでしょ。」

 まるで聞く耳持たずの母親に何を言っても駄目だと悟ったか

 彩は倉庫の中での抵抗を諦めた。

 食事の時鍵を外す時に説得を試みようと考えを変え

 仕方がないので手元にあった読み飽きた雑誌を読んで時間をつぶすことにした。

 ・・・どれくらいが経過したかわからないが

 姉の声がする、時計を見るともう夜の7時

「2週間・・・・気が狂いそうだ・・・・。」

 湿気で暑苦しい部屋、倉庫の奥は1階と2階の間に繋がる窓らしきものがあり

 一応空気は循環して酸素がなくなると言う事は無い

 電気配線等のトラブルの時には、この部屋を通じて家の内部に工員が入る

 もしかしたら、外には繋がってないだろうか・・・など考えても見たが

 建物の内部、壁と壁の隙間なんていうものは

 カビや埃、アリやゴキブリの温床、彩にはとてもそこを捜索する気にはなれなかった。

 となると、外に出るには玄関から……とにかく外の空気が吸いたい。

 と、そこにようやくノックと共にドアのロックが外れる音。

「晩御飯・・・鍵開けるけど。」

 姉の綾はドアを隔て話しかける。

「姉貴・・・・、脱走なんてしないから鍵をかけるのはやめてくれよ・・・!」

 綾はドアを開き部屋の中の彩を覗いた

 一旦目をそらして、ため息と共に首を振る

「アンタが私達の期待に沿えた事あった?」

「そ・・それは・・・それは今まではそうだったけど
 今日からは・・・・。」

 綾は鼻で一笑に付す

「そんなクズの常套句をこんな所で聞くなんて夢にも思わなかった。
 二週間そこにいるのがアンタの反省の形よ、気持ちが形でわかると思う?
 少なくとも私はわからない。」

 至極まっとうで同情の欠片もない正論を放ち、綾は食事を倉庫にいれ戸を閉めた

「は、話くらい聞い・・・・・」

 彩の言葉はまるで耳にととかず、綾は自室に戻った

 彩はドアを叩いて憤りを噴出させた

「お前なんかに私の気持ちがわかるかよっっ!!」

 姉にはきっとわからないだろう

 へこたれる人の気持ちなど、何をやっても平均以上と言うような人間に

 勝負と言うステージにすら上がる事を許されない人間の気持ちなど。

 家族とすら認識されない自分の気持ちなど。



 2週間の間、彩は薄く死んでいくような感覚を覚えながら

 ただ時計の針だけを見つめて過ごした

「早く学校に戻りたい・・・茜が私を恨んでなかったらいいんだけどな・・・。」







 2週間が過ぎた。

 その日、茜は早く家を出て学校に着いた

 不安か期待か、あまり眠れなかったというのが最たる理由だ。

 学校にいる生徒は朝錬をしている部員位で

 教室には誰もいない筈、今日はマリアよりさらに早く学校に来た

 大きなあくびをしながら、戸を開く。

「茜・・・・・。」

 教室の戸が開き終わらないうちに自分の名を呼ばれた

 ついでにあくびで口も開いたままだ

 あくびによる涙目で教室を見渡すと、教室の角に白い発光物体が見える

 指で涙を拭き、明瞭になった視界に映った発光物体は

 今日から謹慎解除になった彩であった

「彩・・・・?、は、早いね。」

 彩は自分の席から立ち上がって、茜の元に近寄る

 茜はまた不安と期待で緊張してきた、さっきの眠気も消えている

 半年いじめられていた過去と二週間前の出来事、

 本当は反省なんてしていないのかもしれない、とまだどこかで疑っている

 大体わざわざ近寄ってくるなんて事が彩にあったろうか?

 人に触れる事を避けるタイプの人間がわざわざ近づくという時はそれを追い出すときだからだ。

 彩は足早に目の前に来る、手の届く距離

 茜は足こそ動かなかったが体を僅かに仰け反らせた

(やっぱりちょっと怖いなぁ・・・相変わらずの無表情だし。)

 彩は更にゆっくり近寄った、体感で50p・・・30p・・・ゼロ。

(ゼロ・・・・ってくっついてる!?)

 茜は困惑して声をかける

「さ、彩・・・!?。」

「んぅ・・・・。」

 茜は自分の状況がつかめなかった

 彩が自分の胸に顔をうずめている。

 2週間部屋に閉じ込められた影響で孤独感が身を包んでいた彩は

 今一番信用できる人間に甘えているのだが

 茜がそんな事情を知るはずもなく

 ただただひたすら今の状況に困惑していた。

「あの〜〜・・・・・・・・彩?」

「・・・・・・。」

 彩はそこから動く気配を見せないが、ともあれ茜の不安の方は消えた

 かわりに疑問が倍の量で噴出されてしまったが

 まずはこの流れに任せてから考えようと

 抱きついてきている彩を見つめる

 まずは頭に手を置いてみた。

「んん・・・・・・・・。」

 素直に反応する彩を見て、茜の顔が緩む。

 こんどは撫でてみる

「うぅ〜・・・・・・・。」

 もぞもぞ動く姿は小動物のようで、茜は何度か撫でてみた。

「ふあぁ〜〜〜っ・・・・。」

 茜は感極まって声を上げた

 数週間前まで忌み嫌っていた存在なのを忘れて和んだ。

(あれ・・・私何和んでるんだろ・・・。)

 1,2分ほどして緊張の解けた茜は次第に冷静さを取り戻し

 周りの事にも頭が巡るようになっていった

 ここは学校、見られるとどんな噂されるかわからない、頭を動かし周囲を見渡す

 ・・・・・・・

 教室のドアの前でマリアと黒沢が目を点にして、茜と彩を見ていた。

 茜は慌てて二人に弁解する

「こ、これは私にもさっぱりで・・・・
 さ、彩っ!?。彩っ、ちょっと!!?」

「ん・・・・・?」

 彩はまだ気がついていない

 まだまどろみの中にいるようだ

 茜が彩の耳元で出す。

「ま、マリアさんが見てる・・・。」

 マリアさんが見てる・・・どこかで聞いたようなフレーズだ

 それはともかく、彩に言葉が届いたのか

 緩んだ表情が元に戻る。

 そして素早く後ろに跳ねて距離をとった。

 教室に入れない雰囲気だったのか

 まだ廊下で様子を見ていたマリアと黒沢は

 ようやく教室に足を踏み入れる

「あの・・・・サヤ。」

 マリアが口を開く

 本人としては、謹慎解除よかったね、おめでとう!

 とでも黒沢と騒ぐ予定だったが

 大いなる疑問の前にそれは消し飛んだ

「ち、違う、近寄った時に偶然よろけて・・・」

 いかにも嘘くさい嘘を彩は放った

 近寄る事自体そもそも在り得ない、そこから既に嘘だとわかる。

 マリアは頭を掻いて、黒沢にアイコンタクトを送る

「あの緩んだ顔見て偶然言われてもなぁ・・・。」

 その嘘に黒沢がとどめを刺す。

「渡辺さんだって和みきってたし、声まで出して。」

 マリアがダメ押しをする

「だ、・・・・だから・・・別にそういう気は無いって言ってんだろ!?」

 彩は近くにあった机を何度も叩きながら回答した。

 言い訳も浮かばなかったらしい。

「そ、そうですよ、私は危害がないってわかって安心したから声が出たの!
 大体私、彩の事そんな仲のいい友達とか思ってません。」

 茜がそう言うと、彩は誰の目にも明らかにショックを受けた

 マリアの顔が悪い笑顔を飛ばす。

 マリアはいい笑顔はすごく苦手だが、歪んだ笑顔はできるらしい。

「別にやましい事は無いさ、というわけで私も抱っこする。」

 マリアがからかうように彩に手を伸ばす

 体に手が触れた瞬間彩は反射的にその手を叩いて拒絶した。

「なにすんだよ・・・・触るな。」

「友達でも叩くのになんで渡辺さんは許されるかな・・・。」

「マリアが友達ぃ〜・・・・?」

 彩は踵を返して自分の席に戻った

 拒絶されたマリアはかなり不満気で

 少し怒っているようにも見えた

 黒沢がそれをなだめた

「マリア・・・、そうやって無理にやるとああなるんだって
 月島はやったらデリケートなんだしさ。」

「ツンデレ攻略は難しいって事か・・・。」

「はぁ?」

 マリアは何かを悟ったようにつぶやく

 眼光は鋭いが見ている方向がおかしい。

 黒沢は2週間余りで、こういう時はこれ以上何も聞かないで無視が最適

 という処理方法を覚えた。

 これ以上聞くとマリアは際限なく変な方向に走る。

「ところで彩は何でそんな早く学校に来たの?」

 そんな二人をよそに茜が彩に質問する。

「家から早く出たかったんだよ・・・。」

「2週間どうだったの・・・外出とかできた?」

「思い出したくもない・・・・ここの方がずっといい。」

 目をつぶって記憶を消そうとしているように頭を振る

 3人はその事はこれ以上聞かないほうがよさそうだと判断した

「そ、じゃあ、何か困った事あったら聞いて。」

 教室に人が増え、友達が来たのを見て、茜は教室の隅の彩の席から移動した

 「抱っこ事件」に言及されると困るというのも彩から素早く離れた理由。

「あの茜の友達、何て名前だっけ・・・。」

 何を思ったか彩は黒沢に聞いた。

「山田 千代子だよ・・・・みんなチョコって言ってる
 ていうかさ、その前に私の名前覚えてんの?フルネームで。」

「あ、ついでに私も。」

 クラスの名前すら覚えていない彩に黒沢とマリアが聞き返す

 彩は目を天井に、次に教室を見渡し、更に窓から曇り空を仰ぎ

 しばらく考え込んでいたが、回答になりそうなものは何処にも無いと

 諦めて二人の方を向いてマリアの方から指差した。

「ええと、マリアは・・・あ・・・・あお・・・の?。」

 頭を傾けながら、何とか正解に近い事を言う

 続けて指が黒沢にむかい

 「黒沢が・・・・・・・・・
 黒沢は・・・・・・・・・・・わかんねー。」

 自信の無さにしたがって差した指と顔が下に垂れる

 マリアは既に呆れ顔、黒沢は1年と3ヶ月の間名前を全く覚えられていなかった事に

 少々腹立っている様子だった。

「祐季だよ・・・、月島ぁ・・・アンタって人はさぁ・・・・!?」

「まともに名前覚えてるのって、渡辺さんだけ?、まさか。」

 そのまさかであるとは、さすがに言えない彩であったが

「そ・・・・そんなわけ無いだろ・・・。」

 と、動揺交じりのセリフは正直に言ったも同然で

 二人の笑いを誘った。

 その笑いをかき消そうとして

「今2人覚えた、だから違う。」

 むっとした顔で彩がそう苦し紛れの言い訳をすると

 二人は彩のおでこをペチペチたたいてからかった。