町を歩いていると、周りが皆振り向いてこっちを見る
全身に作ったアザと、地面の土で汚れた制服は、明らかに怪しいものだろう
時間は14時30分、家に帰るかどうかで悩んでいた。
数日前まで自分の部屋にしている押入れ程度の広さの私の心は
いまやロッカーの狭さになって、窒息しそうだった
死にたい・・・・・・。
いつからそう思っていたのか
仮にそんなことをおくびにでも人に話せば
「生きてさえいれば必ずいいことがある。」
「人は誰しも弱い部分があります、勇気を出す事でそれを乗り越えられる。」
「誰だってつらい事の一つはある、頑張って。」
「食べたくても食べられない子がいる、
そんな人に対して自ら死ぬと言う事は身勝手だと思いませんか?。」
「私はあなたの為を思って言ってるんです。」
ドラマや人から流れてくる救えない、あまりに救えない言葉が頭の中で無限に回る
「死ね」なんて言葉が嫌いと言う人が大概そんな事を言う
「生きてさえいれば…」も「死ね」も言ってる事は一緒・・・意味は一緒だってことに
そいつ等はずっと気がつくこともないんだろうな、ただ偽善を被ってるか違うかの違い
偽善を言われる位ならいっそ悪のほうが心地が良い
どうせ私はバカなんだからバカなことしかできないんだ
だから勝手に自暴自棄になって、勝手に負けるケンカして、勝手に周りに怒りを振りまいて
勝手に嫌われて、勝手に人を怖がって、勝手に死にたがってるだけなんだ・・・
だから、アンタ等は関係ない、だからこっちを見るな・・・・・・!
人通りが多い所をを避けて、狭い路地に入る
大雨のおかげで少し大通りを抜ければ人は殆ど見当たらない
公園に来れば当然誰一人いるはずもなかった
ベンチに座って空を見る
雨が自分を中心に放射状に広がっている様に見えた
車が水しぶきを上げる音と雨の音
工場の低い唸り、遠くに小学校のチャイム・・・・・
耳を澄ませばいろいろな音が拾えた
「さぶ・・・。」
滑り台の下に退避した、地面はぬかるんでいたが、今更汚れが気になるものはなかった
学校から逃げて、人から逃げて、雨からも逃げる・・・
どこまで逃げるんだろう、どこまで逃げられるんだろう・・・。
「渡辺・・・泣いてたなぁ・・・・・・。」
水は低い所、脆い所に流れ込む
今はもう最も低い位置まで到達して、穏やかな水面を形成していた
16時、駅の前の商店街でまだ悩んでいた
多分今日の事は伝わっているはず
なんて言われるか、何をされるか
(嫌だ・・・家族に顔見せたくない・・・)
踏ん切りがつかずにウロウロする
そんな時、後ろから声がかかった
「彩・・・・・・ちょっとアンタ何してるワケ?」
後ろから声をかけた人物はこっちに来いと手招きしている
「あ、姉貴・・・・・。」
月島 綾(あや)、私の姉
手招きしているのは、一緒に話しているところすら他人に見られたくないから
人のいない路地に呼んだのだ
顔こそ似ているものの、髪は黒く、肌は褐色を僅かに帯びている
学校でも優秀そのもので、多彩な分野で才華を発揮している。
色の抜けた私よりよほど「彩」の名が似合う
彩はサヤともアヤとも読める為、時々他人が勘違いする
間違われた時の顔は、ブタかゴキブリにでも間違われたかのような
心底ゾッとする顔を浮かべる。
そして今、その表情がそうなっている。
私はその顔を正視する事はできず、目を背けた。
「母さんから電話が来たのだけど・・・その首、本当みたいね。」
表情はわからないが声だけでも十分な冷たさだった。
「その汚い服で電車に乗る気?、冗談でしょ。」
「あ・・・・歩いて帰る・・・から・・・。」
電車では20分程度でも歩くと山道が続いて3時間以上かかる
それでも許してくれるなら・・・・そう考えていた
「帰ってこないで、見たくもない。」
「で・・・でも・・・。」
ため息が聞こえた。
持っていた折り畳み傘を私に渡す。
「どの面下げて家に上がる気?、あと、私ここ毎日通るの、わかる?
わかったらここから消えて頂戴。」
それだけ言うと、駅の方に向かって
あらかじめ待たせていた友人と合流し消えていった
(・・・・・・みじめだ。)
手渡された傘は優しさでなく
赤の他人になるための手切り
骨まで凍るような冷たさに身震いし
私はそこから動けなくなっていた
心の部屋はもはや何処に行ったのかわからない
一面真っ白になっていた
どこもかしこも他人の場所で自分の場所はなくなった、多分ここも
空は相変わらずバケツをひっくり返したような雨
傘を投げ捨てて、私は海まで歩こう―――そう思った。