学校のチャイムが遠く聞こえる

 この時間帯に学生は外にはいない

 自分はサボった事も早退もなかったので

 そんな状況に違和感を覚えた

 通り行く人が学校をサボった人、と思っているんじゃないかと考えてしまう

 まっすぐ帰ればよかったと思いつつも、

 既に10分歩いて商店街が目の前なので我慢する事にした

 14時30分頃

 私は古本屋にいた、古本屋は興味のなかった本や珍しい本にめぐり合えたりするので

 よく、寄って立ち読みしたりしている

 特に文庫本や新書のコーナーは人が少ないので気兼ねなく読める

 特にこの時間帯はゼロでとても静かに読書、立ち読みできた

 2年生になったばかりの時ここで医学書を買ったのをよく覚えている

 古本なのに3000円もしたから

 そこには、包帯の巻き方から縫合や、

 人がどの程度で死傷に到るのか、その知識が書かれていた。

 その本を買ったせいで、本当は欲しかった本を見送った

 次にお小遣いが入った時、今度こそ買おうとすぐに店に寄ったその時には

 既に誰かが買ったあとで、丁度その本の厚さだけ

 隙間が出来ていた。

(あの時買って置けばよかった・・・)

 今は絶版になって奇跡的に古本として売られていたその本を惜しむ

 結局、医学書の知識は私には用を成す事はなかった

 それは良かったことに決まってはいるけど。

 やはり惜しいものは惜しい。

 あの本は今度売りに来よう、見たらまた思い出してしまいそうだから

 白い肌に紅い跡

 それが脳裏に焼きついて離れない。

 自分の首には跡は無い

 もしかして、もしかしなくても月島は死ぬために私を―――

 手で額の上の想像を払う

 いくら考えたって本人しかわからない事を考えたってしょうがない

 嫌いな奴が消える、結果だけを見て、納得しよう

 そして忘れよう。

 思い出さないように本を貪り呼んだ



 商店街で目的のものを買った。

 そんなにお金を持っているわけじゃないけど

 荷物が予定よりずっと多くなっていた

 荷物を持っていた腕が痛くなってきたから、そろそろ帰ろうと

 時計を見た、16時。

 本を読んでいる間に止めば良いなと思っていたけど

 雨はさらに勢いを増していた

 衝動買いで買った本が濡れないように

 ビニールの袋で包んで、袋の口の部分をカバンの奥に向けて入れた。

 路地に出た私は4,5歩して、前にいた人影が月島彩だと気づく

 すぐに引き返し、立ち看板の陰に隠れた

 黒髪にやや黒っぽい肌の対照的な人が何か喋っている

「母さんから電話が来たのだけど・・・その首、本当みたいね。」

 声はギリギリこちらに聞こえる位だった

 もしかしてお姉さん・・・・?

 月島彩はうなだれてそれを聞いている

 制服や髪が土や泥と雨でかなり汚れている

「その汚い服で電車に乗る気?、冗談でしょ。」

「あ・・・・歩いて帰る・・・から・・・。」

 動揺しているようだった、昨日までなら「ざまあみろ」と思うのに。

 今日はもう顔を見たくなかったな・・・。

「帰ってこないで、見たくもない。」

 私の意志でも通したのか、月島の姉さんが言い放つ

「で・・・でも・・・。」

 唇を震わせて何かを言いかける。

 それを遮るように月島の姉さんは折り畳み傘を月島彩に渡す。

 そして

「どの面下げて家に上がる気?、あと、私ここ毎日通るの、わかる?
 わかったらここから消えて頂戴。」

 月島の姉さんはまるで汚らわしいものでも触れるような嫌悪の表情で

 それを言い、月島彩の元を離れた

 それは人を人間不信に陥れるのに十分な表情の変化  私の横を通り過ぎるとき、その表情は能面でもつけたような

 笑顔に変わっていた、その表情で友達に話しかけていた。

 私は彼女に対して例えようもない深い怒りを覚えた

 死ぬほど嫌いな月島彩を「死ぬほど嫌いに変えた」のは彼女たちではないのか

 月島彩は相変わらずの無表情でアーケードから出た。

 外は雨がひどいのに貰った傘は差さず、そのまま地面に投げて捨てた。

 私はそれを追った。

 さっさと退学にしてしまえばいいと思っていたのに

 こいつが学校からいなくなれば大団円だと思っていたのに

 それで終わったらダメだと理屈でなく感情的に納得できない。

「待って・・・・!、月島彩っ・・・!!」