私がまだ前の学校にいた頃

 それなりに浮いた存在で、

 まぁ自分で言うのもなんだけど完璧超人だし。

 イタズラされてた。

 大概、原因なんて嫉妬と「そんな年齢」だからだろう

 私は武道をやってたから、直接的な危害はなかったけど

 代わりに教科書とか服が破れたり汚れたりしてたっけ・・・

 5月中旬、私は偶然その現場を見た

 自分でももう少し冷静になれると思っていたけど

 気がついたら、全員床に倒れてた

 中には腕が曲がっちゃいけない方向に曲がってた人もいた

 でも反省はしていない、するのは相手のほうだ

 なのに学校を追い出されたのは私

 最初にサヤを見た時、何かしら似ているものを感じたけど

 今はそれを何故それを感じたかわからなくなった

 私がもっとも嫌いな嫉妬の塊みたいな奴なのにな、アイツ・・・・。

 もしかすると、復讐したかったのかもしれない

 わざと嫌がるような事して困らせて。

 人にそんな事する気持ちにも興味があった



   人もまばらな教室、久しぶりに晴れたからか

 10人もいない。

 すぅ・・・とドアが動く

 帰ったと思ったサヤがそこに居た

 今日は機嫌良かったし、きっと忘れ物だろう

 影のように静かな歩みを見せるサヤ

 元々私以上に無表情な生気の薄い顔が

 更に薄くなっているように見える

 さながら死人が動いてる様。

「サヤ・・・どうしたの?」

 振り向かない、どうも様子が変だ

「おい・・・・・?」

 サヤの瞳を覗き込む

 同時に戦慄といえる衝撃を覚え、私はその場に立ち尽くした

 サヤは何かをつぶやいて渡辺さんの所に歩き

 押し倒して馬乗りになる、そして首に手を・・・

(サヤ・・・・・・なのか?)  そこまでの間が何秒だったか

 まるで映画の中の出来事のように

、  突然の出来事に対し、それをただ眺めていた

「うわあぁああぁぁッ!!」

 渡辺さんの叫び声と同時にサヤの体は彼女の上から落ち

 入れ替わるように、渡辺さんがサヤの首を絞め始める

(いけない・・・止めないと)

 ようやく身体に指示が行き渡る

「おいっ、やめろ!!」

 思わず駆け寄って声を放つも

 二人ともまるで聞こえている様子は無い

「無理矢理離さないとダメかも!」

 女子が叫ぶ、私が一番近くにいる。

 渡辺の腕を掴み、全力で引き離した

 彼女も正気を失っていた

「渡辺さん!落ち着け!!。」

「・・・・・・蒼野・・・さん。」

 騒ぎを聞きつけ人が集まってくる

 渡辺さんは自分の掌を、そしてサヤに視点を移す

「ひっ、キャアアアアアアアアッ!!」

 教室を、校舎をつんざく高い声が響き渡る。

 その声を目の前で発せられた・・・頭がクラクラする

「ど・・・・どうしよう、どうしよう?どうしよう!?。」

 渡辺さんが混乱しているのも無理は無い

 ただでさえ死人みたいな顔面蒼白のサヤが目をつぶって倒れているのだ

 しかも、首に赤い痕跡・・・・・

「大丈夫、死んでない!、死んでないってば!!」

 多分・・・・死んでないと思う・・・

 あまりあの姿を見せるのはよくないと思い

 私が視界の蔭に立った

 悲鳴を聞いた黒沢が教室に入って、すぐにサヤの元に走って起こす 「ん・・・・・?」

 サヤがようやく起きた。

 それを見た渡辺さんが泣き崩れる。

 自分では慰めにならない、彼女の友達に任せる事にした

 後は・・・。

「・・・・・何してるんだよ・・・サヤ・・・。」

 失望感を吐き出すように聞く

 嫉妬で人を殺すほど、人が落ちていたのか・・・?

 サヤは現状を把握できていない

 思い切り頬をはたく

 続けてもう一発

「起きたか?、起きな。」

 沈黙、もう一回頬をぶとうとした時

 サヤを支えている黒沢がその頬を掴んで捻った

(これは痛い・・・・・。) 「起きろよ!、あぁ?」

 さすがにサヤも反応した 「痛い・・・なにをする・・・・・。」

 痛みで覚醒したサヤは周囲の様子を伺い

 「自分で立てる」と黒沢を押しのけ立ち上がる。

 もっと人間らしい反応はしないのだろうか?

 さっきだって相当痛いはずなのに、棒読みのような声

 喉の紅くなった跡が痛々しい

 それにどれだけ今・・・強烈な非難の目を浴びてると思っているんだ

 それで大丈夫なわけが・・・

 教室から出ようとするサヤ、誰一人として動揺していない者はいない中

 入ってきてから出るまで表情は微塵も動かなかった。

「どこに行く気?」

「どこでも良いだろ・・・・・?」

 「どこでも」に一抹の不安を覚える

 主犯が去っていくのにだれもそれを追おうとはしない

 しかし私も、他の誰もサヤを止めずにその後姿を見送った



  「つ、月島さんは?」

 渡辺さんが泣き止んで、言葉を発したのは

 およそ30分後の5時間目、授業は中止になり天気は既に雨になっていた

 教室は大抵が渡辺さんの元に集まっている

 数人は机でじっと座っていたり、立って何かを話している

 黒沢やその取り巻きはずっと教室に見当たらない、探しに行ったか?

「ここまで問題になっていたなんて・・・。」

 と、担任。

 基本的に本人が申告しない限り、事の重大さなど誰もわからないだろう

 4日とは言えその中にいた私すら軽く見ていた帰来がある。

 いくらなんでもここまでになると、タダで済むわけがない

 担任に尋ねた。

「それって、退学にするって事ですか?」

「・・・前々から注意してきたし、父兄にも伝えた。

 それで事を収められると・・・もしかしたらそうなるかもしれない。」

 胸が詰まる思いがした

 事が大きくなったのは、自分のせいでは無いかと思ってしまう

 月島と渡辺という劇薬に

 興味本位で火を放り込んだのは自分だと

(せめて・・・もう一回位話を聞かないと・・・。) 

「私、ちょっと探してくる。」

 教室を走って出て行った

 もしかしたらまだ学校に、しかし30分が既に経過している

 何ですぐに追わなかったのか、珍しく後悔の念があった

 学校に居る可能性は皆無と見るのが普通だろう

 しかし、月島はたったいま校舎裏から出て行ったところを見かけた。

 信じてもいない神様に感謝して

 濡れるのも構わず走って近寄った

 ―――が、またもそれを拒むように違和に気がつく

「何だあの傷・・・・・・・。」

 30分余りも学校に居ること事態を疑問に附するべきだったのだ

 明らかに打撲のアザが顔以外のほぼ全身に作られて

 服が土で汚れている、何故そうなったかは言われるまでもなくわかる

「誰がやったんだ・・・・・・。」

 声をかけるにも浮かばない

 浮かんだ言葉は自分の中で却下された

 なにを質問した所で答えるわけがないだろう。

 励まそうと言う気はさすがにない、叱咤は・・・無理、痛々しすぎる

 かといって謝るのも違う気がする。

 距離を置いて着いて行けば話のキッカケを掴めるだろうか・・・

 4日、正確には3日しか一緒にいなかったが

 何故か放っておけなかった

 サヤは顔の泥を手で拭う

「くそ・・・黒沢め・・・・。」

 その言葉を聞いて、私は足を止めた

 あの女・・・一体何のつもりで・・・?

 ブレザーを破いたのも、サヤへののリンチも追い出す為か?

 他人には良い顔して、裏でコソコソ鬱憤を晴らす行為

 つい2週間前の事を思い出す、あの時と同じ

 私は唇を震わせた。